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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.433『アップルとディズニー』

オピニオン

2012-11-12

 昨年10月に亡くなったスティーブ・ジョブズが,最後まで気に病んでいたことは,「自分が死んだあと,アップルの社員や役員が“スティーブだったら”と考えてしまう」ことだったという。自分が“神格化”された結果,それに縛られて,会社が間違った方向へ進んでしまうことをとても心配していたのだ。

 逆に,ディズニーでは,作品の制作現場において“ウォルトだったら”と考えることが徹底されている。偉大なクリエイターであった創業者の哲学が脈々と継承されていることこそが,ディズニーの強さの秘訣というわけだ。

 この対照的な話は,会社規模の大小を問わず,経営者であればだれもが一度は考えさせられる,いや,考えねばならない問題であるといえる。もちろん,絶えず新しい発想と技術が求められるコンピューターやエンターテインメントの世界と比べれば,GS業界の変化は,十年一日のごときものかもしれない。しかし,その十年余りのあいだにも,全国のGSは最盛期の6割程度にまで減少し,いまだに歯止めがかからない状態だ。この危機的な時代にあって,GS経営者は自分の会社が進むべき道を真剣に考えなければならない。その際にひとつの“指標”となるのが,先の対照的な二つの例といえる。

 単なるポーズではなく,遺言として“オレの考えに捉われるな”と言える創業者はそうそういるものではない。まして,ジョブズのようなスーパーにウルトラが付くほどのカリスマ経営者が言うのだからスゴイとしか言いようがない。GS業界には,跡を継がせたはずの者(大抵は息子か女婿)に,ああだこうだと指図する創業者が実に多い。私は,日本のGS業界において独立系セルフGSが思ったほど進捗しないのは,こうした“前社長”たちの存在があると見ている。系列を離脱することにせよ,セルフに改造することにせよ,“オレが夢想だにしなかった事をやるなんて断じて許さん”というわけだ。頭の中身が,地下タンクと同じくらい老朽化しているのだ。

 しかし,そうは言っても,会社を興し,発展・継続させてきた功労者たちである。問題は,そうした人たちを説得するだけの知識と熱意を後継者たちが持っているかどうかだ。再びアップルを例に取ると,ジョブズは過去に「音楽プレーヤーはやらない」とか,「動画再生はいらない」などと,いまでは耳を疑いたくなるような発言をしていたそうだ。しかし,彼の「反対」は,その辺のバカオヤジとは異なり“こんなオレを説得するぐらい考え抜け”という目的を持ったものだった。

 一方,ウォルト・ディズニーにはこんな逸話がある。「ピノキオ」制作の時,原画を見たウォルトは,ピノキオの長く伸びた鼻の先が尖っているのを見て,「赤ちゃんから小学生までみんなが見る作品なのに,そんな尖った鼻を真似して子どもたちが怪我をしたらどうするんだい!?」とスタッフを叱責し,先を丸くさせた。観客,つまり顧客に対するこれほどまでに細やかな気配りを示したウォルトの精神を決して忘れるな,というのが今日のディズニーの“掟”なのだ。

 迷った時や試練に直面した時,“創業者だったら”と考えるのは,決して安直な思考ではない。常に創業の原点に立ち返り,顧客第一の経営姿勢を貫いているかどうかを吟味するという,今日,多くの企業がわかっているようで実はできていない,とても難しいことなのだ。さて,あなたの会社はいま,アップルしたほうがいいですか,それともディズニーしたほうがいいですか?

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