セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.536『監視社会』

社会・国際

2014-12-01

 今年9月,東京・多摩市で建築中の住宅が相次いで放火された事件で,警視庁は,となりの日野市に住む男が事件に関与したとして,先月30日,放火の疑いで逮捕した。警視庁によると,現場周辺の防犯カメラの解析を進めたところ,事件の約1時間前に近くのセルフスタンドで,バイクに給油しがてら,飲料水用のプラスチック製ボトルにもガソリンを入れる容疑者の男が映っており,同じボトルの燃えかすが現場で見つかっていたことが決め手になったとのことだ。

 このように,近年,防犯・監視カメラの映像が,容疑者特定につながったというケースが増えている。いまや,ありとあらゆる店舗・建物・街路などにカメラが取り付けられており,犯罪抑止に大きな役割を果たしている。今後も,監視カメラの台数は確実に増加してゆくだろう。ロンドン市内にはすでに400万台以上のカメラが設置されているそうで,一人が一日に300回も撮影されているといわれている。まさに,「監視社会」そのものといえるが,プライバシーがある程度犠牲になることを承知のうえで,ロンドン市民が監視カメラの普及を受け入れている理由は,やはり,この都市がかつては北アイルランド紛争,現在はイスラム過激派との戦いにおいて,しばしば爆弾テロの被害に遭ってきたからだ。50人の犠牲者を出した2005年の爆破テロ以降も,英国内ではテロ未遂事件が相次いだが,監視カメラのおかげで被害を食い止めることのできたケースがあったことも手伝って,監視に対する市民の拒否感は薄まってきているという。日本においても,2020年東京五輪に向けて,監視カメラの需要が一段と加速するだろう。

 しかし,監視カメラの映像は,歴とした個人情報であることを,システムを運用する側がよくよく自覚していなければならない。いまは,録画映像をインターネットでたちまち世界に配信することのできる時代だ。GSにおいても,面白半分に映像を公開するようなことがあれば,特定の個人のプライバシーを侵害し,その人の名誉を損なうことになりかねない。私たちには,録画した映像をきちんと管理する責任があるのだ。

 あるセルフスタンドには,監視室の中にもカメラが設置されており,監視する人が監視されるという状態になっていたという。会社の説明では,暴漢が押し入ったりするような不測の事態に備えて設置したとのことだったが,そのGSに勤めていた人は,「別に悪いことをしているわけじゃあないけれど,あくびをしたり,鼻をほじっているのまで見られているかと思うと気持ちのいいものじゃない」と,辞めてしまったとか。そりゃあそうだ。

 ところで,冒頭で紹介した多摩市の事件の顛末を読むと,容疑者の男性がプラスチック製ボトルにガソリンを詰めるのを,そのセルフGSの監視者が見過ごしていたということになる。その時点で気が付いて注意していれば,放火事件を防げたかもしれないのだから,GSの不手際を追求すべきだ─。確かにそうかもしれないが,実際にその映像を見てみないとわからないのだから,GSに非があると早計に決め付けるのはいかがなものか。そもそも四六時中モニターの映像に目を凝らしているなんて不可能なことだし,自分の店に来る客を,いつも犯罪者のように見張らなければならないなんて,ぞっとしない。結局,どれほど監視カメラを張り巡らせたとしても,人間の心の中まで監視することはできないのだ。多摩市の事件の容疑者は22歳。犯行の動機は「むしゃくしゃしていたから」だという。

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