セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.554『粛々と』

GS業界・セルフシステム

2015-04-13

 今月5日, 菅官房長官と沖縄の翁長知事が米軍普天間飛行場移設工事の問題をめぐって会談した際に,菅氏が繰り返し使っていた「粛々と工事を進めてゆく」という表現に「上から目線」を感じるとした翁長氏が,「“粛々”という言葉を使えば使うほど,県民の心は離れ,怒りは増幅する」と反発,それ以来菅長官は「不快感を与えたのなら使わないようにする」として「粛々」という言葉を封印することになった。

 辞書によれば,「粛々」とは『ひっそりと静まっているさま。おごそかなさま』という意味がある。もともとは中国古典の擬音語として,「鳥の羽音や北風が吹きつける音」を表し,「厳しく引き締まった雰囲気」を連想させる表現なのだそうだ。したがって,本来,物事を「粛々と進める」とは,いかなる状況に置かれても,浮かれことも,うろたえることもなく任務を遂行するプロフェッショナルの仕事ぶりを思い描かせ,むしろカッコイイ表現ともいえる。私が真っ先に思い浮かべるのは,イチローの姿だ。

 ところが,これを政治家や役人が使うと,何と言われようと“カエルのつらにションベン”とばかりに,問答無用で権力者の力を行使する傲慢な態度と捉えられてしまうようだ。さらに,「上から目線」と反発されて,「じゃあもう使いません」という官房長官の反応もなんだか変な感じがする。統一地方選を前にしての対応なのかもしれないが,「粛々」という言葉を使うのをやめたところで,別の表現に替えて,いままでどおりの姿勢で事を進めるのであれば,かえって偽善的に思われてしまうのではないかとも思う。

 さて,供給過剰状態を是正するべく,経産省主導で進められている石油業界の合理化は,「粛々と」進められているとは言い難い。産業競争力強化法の適用を受け,退路を断たれた石油業界だが,2010年のJXホールディングス誕生以降,大きな再編劇は起きていない。昨年末に報道された出光による昭和シェル買収も,いまだ具体的な動きはなく,1兆円を超える有利子負債を抱える出光が,さらに5,000億円もの金を借りてまで本当にTOBを仕掛けるのかとの声も聞かれる。一方,東燃ゼネとコスモは先ごろ製油所統合で合意したが,近い将来の経営統合を視野に入れての動きではないかと見られているが,こちらもまだどうなるかわからない。

 ひとつだけはっきりしていることは,これらの話は,GS業界には何の相談もなく進められるということ。そして,元売同士でひとたび決まってしまえば,系列の特約店や販売店がなんと言おうと,「粛々と」 物事が進められてゆくということだ。仕入れ価格におけるブランド料の額やクレジットカードの手数料率,POSシステムや店舗什器の仕様なども,すべて好むと好まざるとにかかわらず,「粛々と」変更されてゆく。「上から目線だ」と文句を言っても,“上の者が上からモノを言うのは当たり前じゃないか”と一蹴されてしまうだけだ。

 まあ,いまどき自分たちは元売と対等の立場にあるパートナーだなどと本気で信じているGS経営者はいないだろうが,そのあまりに隷属的な立場に怒りや哀しみが込み上げるのを禁じえないのであれば,いつまでも特約店会でぎゃあぎゃあ騒いだり,石商の寄り合いでぶつぶつ文句を垂れていないで,「ひっそりと」業転ガソリンを仕入れ,それを元売に咎められたら,「おごそかなさま」でこれまでの取引きへの謝意を表し,今度こそ「粛々と」PBへの道を歩むべきである。

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