セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.593『同一労働・同一賃金』

社会・国際

2016-01-26

 安倍首相は22日,衆参両院の本会議で行なった施政方針演説の中で「多様な働き方が可能な社会への変革」を訴え,「同一労働・同一賃金の実現に踏み込む」と表明した。『ブリタニカ百科事典』によれば,「同一労働・同一賃金」とは,「等質・等量の労働に対しては,労働者の性別,年齢,人種などの区別なしに同じ額の賃金を支払うべきであるとする原則」と定義されているが,いまの日本の労働環境においては,正社員と派遣・アルバイト社員との賃金格差をなくすことが主な課題となっている。

 同じ仕事をしたら同じ賃金を払う─この至極当たり前のことが,日本の職場では,なかなか実現しない。とりわけ,非正規労働者の側から,「わたしたちより仕事が遅かったり,下手だったりする正社員が,わたしたちよりたくさん給料をもらえるなんて不公平だ」との声が上がっているようだが,正規労働者の側からも,「わたしたちはサービス残業しなければならなかったり,本来の業務以外にも会議や研修に参加することもあったりと,非正規の人たちは負う必要のない荷を負っている」との主張も聞こえてくる。

 しかし,正社員の場合,給料以外にも賞与や退職金や企業年金など,その場の賃金にカウントされない副次的なプラスアルファが存在する。こういったもの全てを考慮した上で同一労働・同一賃金を実現するとなると,額面収入は正社員よりもアルバイトの方が高くなければ不公平いうことになる。つまり,非正社員と同程度の仕事しかできない正社員は,明らかに高コストの人材なのだ。

 GS業界ではその労働力の大部分を非正規社員に依存している。特にセルフGSにおいては,業務を単純化・均等化することで,スタッフ全員が非正規社員で運営するまでになっている。無論,危険物保安監督資格を有していなければならないが,それ以外は,特別な技能を持っていなくても,店舗を運営することが可能だ。将来的には,ロボットが取って代わる職種の一つになるかもしれない。では,そのような業界で正社員として採用される人材とは,どんな人材か。

 セルフGSにおいて最も必要とされるのは,保守・営繕の技能を持っている人材だと思う。セルフGSは,様々な電子機器や機械類によって稼動している。それらのメンテナンスが適確に行なえる人,故障した際に修理・復旧できる技能を持っている人は,ローコスト経営に大きく貢献できる人材である。

 カーケア部門を持つGSであれば,言うまでもなく,接客・販売力が秀でている人は正社員として厚遇すべきなのだが,問題は,その人がずっと高いポテンシャルを発揮できるかどうかである時代とともに,あるいは体力が,あるいは技能が,あるいは理解が衰えてゆく時,その人は職場のお荷物になってしまい,リストラの対象になってしまうという恐れもある。正社員は,常にそのコスト(給与)に見合う仕事をすることが求められるのだ。人によっては,正社員であるということが,必ずしも恵まれているとは言い難い。GS業界では,見込みのあるアルバイト社員に「正社員にならないか」と声をかけたら,にべもなく断られたということが珍しくない。

 同一労働・同一賃金と聞くと,非正規社員を正社員に“格上げ”させることと同義語のように捉える人が多いようだが,一方では,正社員を非正規社員に“格下げ”させることも行なわれないと,雇用のバランスは保たれないのではないか。いや,非正規が格下と決めつけてはいけない。働き方が多様化している現代では,正社員という身分に執着するのではなく,アルバイトでも構わないという冷めた見方をしている人は案外多いのではないだろうか。「同一労働・同一賃金の実現に踏む込む」と,これまで日本型経営の美徳とされてきた「正社員制度」をむしろ崩壊させるようなことになるかもしれない。労働者受難の時代である。

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