セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.622『健全な精神』

社会・国際

2016-08-23

 リオ五輪・競泳米国代表のライアン・ロクテが,今月14日早朝,リオ市内のGSで強盗に銃を突き付けられて金品を奪われたという話はでっちあげで,実際は,ロクテ選手を含む4人の米国人選手がパーティーで酒に酔い,宿泊施設に戻る途中,用を足すために立ち寄ったGSで,トイレのドアを壊したり,壁に向かって放尿するなどしたため,銃を持った警備員に身柄を拘束されたという,実にみっともないものだったことが判明した。

 19日の米国の五輪報道は,女子レスリングでヘレン・マルーリスが吉田沙保里を破った歴史的快挙も吹き飛ばし, 4回の五輪出場で通算12個のメダルを獲得しているスター選手の醜態一色に。例えば,ニューヨーク・ポストはロクテ選手が「米国人が世界で嫌われる全ての理由を兼ね備えた人間になった」と1面でこき下ろした。ただし,ロクテ選手の弁護士は,偽証の証拠の一つとなったGSの防犯カメラの映像について「(映像には)銃を手にロクテらにカネを渡すよう要求している制服を来た人物が映っていた」と主張し,あくまででっち上げではないとの立場を崩していない。

 『健全な精神は健全な肉体に宿る』という有名な言葉があるが,これは古代ローマの詩人であり弁護士でもあった,ユウェナリス(60-130年)という人が記したものとされている。この言葉は,「身体が健全ならば精神も自ずと健全になる」という意味の慣用句として定着しているが,実は本来ユウェナリスが伝えたかった事は全然違うものだった。この言葉が収められている著書『風刺詩集』の文脈を辿るとそれは概ね次のようなものだ。人が幸福を得ようとして求めるもの─金銭,地位,才能,栄光,長寿,美貌などはいずれも,それを追い求めるなら身の破滅をもたらす。もし願うとしたら「心身ともに健康であること」ぐらいにしておくように。その程度なら不幸になることもない─。

 つまり,オリンピックで優勝するような人間の「肉体」や「精神」は,むしろ「不健全」なものだと皮肉っていることになる。富も名声も手にした五輪アスリートたちが人道を踏み外して転落する様を見ていると,まさにユウェナリスの言葉通りと思える。

 足るを知り,健やかで心穏やかに暮らすことこそが知恵の道であるとは,古今東西の賢人が異口同音に諭している箴言だ。しかし,もっと強く,もっと多く,もっと高く…という人間の欲望は現在に至るまでとどまることを知らない。その結果,家族や友人を失ったり,健康を害したり,命を失ったりする。“まことに人間は愚かな生き物よのぉ”と1900年前の風刺詩人のせせら笑いが聞こえてきそうだ。

 GS業界は『健全な経営は健全なマージンに宿る』ということに気づき始めたのか,先月から今月半ばにかけては,比較的堅調な市場価格を保ってきたように思う。しかし,相変わらず『健全な経営は健全なボリュームに宿る』と信じている者もいて,盆休み明けの売れ行き次第ではまた市況崩壊が始まるかもしれない。石油元売販社が「健全な精神」を発揮して,「健全な価格」で販売することを切に望むものである。

 ところで,今回のロクテ選手たちによる蛮行は,GS業界の一人として憤りを感じる。小便器の中に吸殻やガムが捨ててあったり,洗面台に空き缶が置かれているだけでも「クソ~」と思うのに,ドアをぶっ壊すなんてけしからん話である。実際,トイレというのは厄介な場所である。監視カメラを取り付けるわけにはゆかないので,昼間でも防犯上死角となる。そうだからといって,「トイレを使用したい方はスタッフに声をおかけください」として,そのたびに応対するのも面倒だ。だから,使用する人の「健全な良心」に委ねるよりほかない。相手がメダリストだろうが誰であろうが「ロクテ」もない奴らには使ってもらいたくない。

コラム一覧へ戻る

ページトップへ