セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.865『エッセンシャルワーカー』

社会・国際

2021-10-04

『英国でトラック運転手の不足に伴う混乱が続いており,現場の運転手らは,食料品からクリスマスプレゼントまであらゆる物価が上がると警告する。採用活動も難しくなっており,ある会社は,大型貨物トラックの運転手の採用条件に年収7万5000ポンド(約1122万円)を提示した』─10月1日付「ロイター」。

 英国ではEU離脱の影響で,多くのEU移民が帰国するようになっており,EU移民の就労割合が高かったトラックドライバーが激減,10万人余り不足しているという。タンクローリーも運転不足となり,英国内の給油所8千ヵ所余りが加盟する団体の報告によると,先月末現在,全体の27㌫は在庫切れのままで,21㌫は1種類の燃料しかない状態とのことだ。

 報道などでそれを知った人が少しでも燃料を確保しようとパニック買いに走って大行列。少しでも多くのガソリンを手に入れようと古いペットボトルまで持ち寄っているとか。(日本ではアウトです) 順番を巡ってけんかが発生するわ,従業員が罵声を浴びせられたり,乱暴されたりするわで,英国のGSはいま殺伐とした雰囲気に包まれているらしい。

 今回の事態を受けて,英国政府は急遽5千人の外国人ドライバーに一時ビザを発給するとのことだが,果たして機嫌を直して戻ってきてくれるだろうか。英国においては,物流や建設・介護・飲食などはEU圏内の外国人労働者が担ってきたのだから,EUを離脱すればこうなることはある程度予測できたはずだ。むしろ,外国人労働者に職を奪われたと憤っていた人たちにとっては,10万人もの雇用が創出されたのであり,しかも1000万円以上の高給待遇。ブレグジット大成功!ではないのか?

 英国のような特殊事情になくても,日本の物流業界も相当やばいとの声がネット上に多く寄せられている。中小の運送会社は,労働時間や賃金問題がほとんど改善されておらず,若者たちに敬遠され,高齢化が進んでいるとのこと。また,商品は無事なのに梱包のダンボールがちょっと破損しただけで受け取りを拒否するなど数多ある荷主の横暴ぶりも,ドライバーたちを苦しめているとか。“せめて給料ぐらいは弾んでほしい,英語がしゃべれるならイギリス行きたい”というつぶやきも。

 withコロナの時代となり,私たちの安全と生活を根底から支えている「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人たちの存在が注目されている。これまで,賃金を抑えられ,為に人手が確保できず業務過多に陥り,ますます人手が減ってゆくという悪循環に置かれてきた人たち。いまこそ彼らの待遇を改善しないと社会は崩壊してしまうだろう。英国が陥っている問題は,年々外国人労働者の依存度が高まっている日本において,“他山の石”とすべき出来事ではないだろうか。

 むかし聞いた話だが,政府のある分科会で,大学教授を務める委員が「東京都のごみ収集員の給料は高すぎる」と発言した。すると,別の委員がこう言ってたしなめたという。「先生,あなたが講義を休むと学生たちは喜びますけど,収集車が一日でも来ないと大勢の人が困ってしまいます。世の中で本当に必要とされているのはどちらでしょうか」─。

 エッセンシャルワーカーたちに罵声を浴びせたり,その家族まで差別する人たちのことがしばしば報じられる。何という傲慢で,醜悪な人たちだろう。コロナ禍によって鬱積した不安や不満を,客であるという優位性を誤用・乱用して,社会インフラに携わる人たちに理不尽な仕方でぶつけている。ドイツでは先月18日,GS内の店舗でマスク着用を求められた客の男が店員を射殺する事件があった。

 英国のドライバー不足のはなしから少々脱線したが,要は物流をはじめ,普段当たり前と思っているライフラインは低賃金で長時間働いている人たちのおかげで間断なく支えられているという事を忘れてはならない。彼らの待遇が改善されることは,イコール,有形無形の様々なサービスの価格が上がることも理解すべきだ。少なくとも,エッセンシャルワーカーたちを蔑むような言動は厳に慎むべきだし,そうした人々に労いや感謝の言葉をかけるよう心がけてゆきたい。

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