セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.154『跡継ぎ息子』

オピニオン

2007-04-16

 今日、日本のガソリンスタンド経営者の大半は、いわゆる“跡継ぎ息子”たちが占めている。何店舗ものスタンド・チェーンを統括する“背広組”もいれば、一店舗のスタンドを切り盛りしている“制服組”もいるが、彼らは一様に、親から譲り受けたガソリンスタンドという家業を継続させ、発展させることを期待されている。しかし、年々厳しさを増す業界の環境にあって、苦悩の日々を送っている二世経営者は少なくない。

 一般には、「創業者の父親に比べれば、跡継ぎ息子は苦労が足りない」とされるのだが、ガソリンスタンド業界に限って言うと、特石法の撤廃、元売の再編、セルフ化到来、異業種の参入、需要の減少などなど、先代たちが経験したことのない問題に対処しなければならない現在の二世経営者たちは、親以上の苦労を強いられているように思う。

 だが、それら二世経営者にとって最も頭が痛いのは、自分を育て、財産を譲ってくれた先代その人の存在ではないだろうか。父親から見れば、息子はいつまで経っても息子である。ついつい心配になって、口を出したり、手を出してしまうのも無理はない。もちろん、親の助言や矯正は、我が子を愛するが故のものであって、それに聴き従うことは多くの場合益となる。しかし、一方で、昔の成功体験にとらわれ、時代の変化に対応できず、若い跡継ぎにとって最大の抵抗勢力となる父親もいる。その顕著な例がセルフ化問題をめぐる対立である。

 ある日、息子が店をセルフに改造しようと持ちかける。資金面では何とかなるとしても、果たして売れるのか。いままで贔屓にしてくれた掛売り客はどうする。長年働いてきた従業員はどうする。心配が先に立ち父親は反対する。息子は、このまま手をこまぬいていては店はジリ貧になると訴えるが父親は首を縦に振ってくれない。対立する父と子─よくある構図だ。

 こうして書くと、読者のみなさんは、『寺内貫太郎一家』の小林亜星みたいな頑固親父が、「バカヤロウ!お客さんに給油させるなんてことができるか!」と息子を怒鳴りつける図を思い浮かべるかもしれないが(浮かべないか)、実際はそんな単純なものではない。私もこれまでに、こうした類の相談を何軒も受けてきたが、実は相談に来るのは「反対派」の親父さんの方だったりする。「息子はこう言ってるんですけどねぇ、和田さん、実際のところどうですか?本当にうまくやって行けますかねぇ?」と、まるで息子の進路相談に来た親のようなのだ。「いっぺん、息子に会ってよく話を聴いてやってもらえませんか」─。

 息子さんは息子さんで、「僕はセルフにしてこれこれこうしてやって行こうと思うんですけど、親父が心配して許してくれないんです。親父の言うことを聴いているとだんだん心配になってきちゃって…」と、これまた悩み相談のような会話になる。「いっぺん、親父に会ってよく話を聴いてやってもらえませんか」─。

 セルフに改造して、万一失敗したら、息子に大きな苦労を背負わせることになりはしないか、と心配する親父。親父に逆らってセルフ化を進め、親父との溝を広げて良いものか、と案ずる息子。セルフ化の可否をめぐって、子を思う親、親を気遣う子の情愛が複雑に絡み合う。

 こんな話もあった。「去年、親父が仕事中に転んで怪我をしてから、あんまり動けなくなってしまったんです。この際セルフにして、親父にのんびり店番してもらおうと思うんですけど…なかなか、うんと言ってくれなくって」─。泣かせる話ではないか。こんな親孝行の跡継ぎ息子を是非とも支援したいと思う。

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