セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.96『ガソリンを売りまくれば幸せになれるのか』

オピニオン

2006-02-13

 西アフリカで語り伝えられているという笑い話。少し長いのだが、まあお読みください─。

 丸木舟に乗って家に帰った漁師が、外国から来たビジネスマンに会った。ビジネスマンは漁師に、なぜこんなに早く帰って来たのかと尋ねた。漁師は、もっと長く漁をしていてもよかったが、家族を養うのに十分な魚を捕ったと答えた。

 「では、空いている時間は何をするのですか」とビジネスマンは尋ねた。

 「そうだな。少し釣りをしたり、子どもたちと遊んだり、暑い時はみんなで昼寝をしたりする。晩には一緒に夕食を取って、その後、仲間と集まって音楽を楽しむ。そんな感じかな」と漁師は答えた。

 ビジネスマンは、こう口をはさんだ。「わたしは大学の学位を持っていて、こうした事柄を研究してきました。あなたを助けたいのです。もっと長く漁に出たほうがいいですよ。そうすれば収入が増えて、そのうちこの丸木舟より大きなボートを買えます。大きなボートがあれば、さらに収入が増え、やがてトロール船の船団を持てるようになります」。

 「それから?」と漁師は尋ねた。

 「そうなれば、仲買人を通して魚を売る代わりに工場と直接交渉できますし、自分で魚の加工場を始めることさえできます。村を離れて、ニューヨークやパリに行き、そこから事業を経営できます。株式市場に上場することもできます。お金持ちになれますよ」。

 「それにはどれくらい時間がかかるんだい」という漁師の問いに、「おそらく、15年から20年でしょう」とビジネスマン。

 「それから?」と漁師は質問を続けた。

 「人生が面白くなるのはそれからです」とビジネスマンは説明した。「退職して、都会の喧騒から離れ、田舎の村に落ち着けます」。

 「そしてどうなる?」と漁師。

 「そうなれば時間のゆとりができて、少し釣りをしたり、子どもたちと遊んだりできますし、暑い時には昼寝をし、家族と一緒に夕食を取り、仲間と集まって音楽も楽しめますよ!」─。

 飽くなき事業展開に血道をあげる経営者は、ガソリンスタンド業界にも大勢いる。もちろん、経営者であれば、自己の能力と可能性を信じて目標を掲げ、それを実現しようと努力するのは、至極当たり前のことだろう。しかし、それが安心や幸福をもたらすかどうかは、また別の話である。いや、むしろ、事業規模を広げれば広げるほど、不安や圧力が増し加わり、一度しかない人生を苦難に満ちたものにしてしまうことだってあり得る。

 セルフ方式の導入により、ガソリンスタンド業界は、それまでの量販追求から利益追求へと方向転換し、「ゆとり」を勝ち得るチャンスがあったにもかかわらず、前述の笑い話に出てくる「外国から来たビジネスマン」のような元売会社の甘言に乗り、量販戦争をますます激化させることになってしまった。元売の傘下にない独立系スタンドも、これに負けじと勢力拡大をもくろんで参戦した結果、我が業界では「ゆとり」はますます遠のいてしまった感がある。

 それにしても、9年も続けて、ガソリンスタンドが毎年千件を超えるペースで減り続けているというのに、まだシャカリキにガソリンを売らなくちゃいけないのだろうか。「家族を養うのに十分な魚」だけで十分なのではないだろうか。「トロール船団」を持てば幸せになれるのか。ガソリンスタンド業界が、セルフシステムという道具をもう少し賢く使い、「少し釣りをしたり、子どもたちと遊んだり、暑い時には昼寝をし、家族と一緒に夕食を取り、仲間と集まって音楽も楽しむ」ゆとりある日々を送ることができるのはいつのことだろうか。

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