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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.892『共感疲労』

社会・国際

2022-04-11

 ロシア軍がキーウから撤退したあと,むごたらしい虐殺の痕跡が次々と報じられ,世界中に衝撃が拡がっている。ウクライナ東部では,ロシア軍の無差別攻撃が激化しており,民間人の死者は急増すると見られている。こうしたニュースを毎日のように見聞きするうちに,怒りや悲しみの気持ちが募り,落ち込んだり,イライラしたりすることを「共感疲労」と言うのだそうだ。これは心理学で使われている言葉で,もともとは医療や介護で働く人たちが,病気などで苦しむ人たちの世話をしているうちに,自分も苦しくなって疲れてしまう現象をさす言葉だという。

 戦争で苦しんでいる人が大勢いるのに,自分はごちそうを食べていて良いのか,笑っていて良いのか,何もしなくて良いのかと,自分を責め,体調を崩したり,情緒不安定になったりする人がいるという。東日本大震災の際にも,こうした現象が広く見られたというが,戦争の場合は自然災害よりもずっと複雑だ。大地震なら,頑張っている被災者のみなさんを心で応援し,また実際にボランティアに行ったり,支援金を送ったりすることに,何の迷いもない。しかし,戦争の場合は“がんろう,ウクライナ”と応援することは,戦闘が続き,来る日も来る日も大勢の人が死ぬ事に繋がる。共感すればするほどストレスが増す。

 ウクライナに関する報道で何を考え,どんな行動をするかは個人の自由だ。人は関係ない,自分だけ楽しく過ごせればいいという人もいる一方,つらい思いをしている人を見て自分もつらくなる人もいる。私自身,ウクライナに親戚や友人がいるわけではないが,やはり連日報じられるウクライナの惨状に,感情を揺さぶられ,平常心を保つのを難しく感じる。特に,ロシア政府の高官が,虐殺の揺るがぬ証拠を突きつけられても,“あれはすべてでっちあげ”と発言しているのを見ると,憤りを感じる。戦場での映像がリアルタイムで世界に拡散される21世紀に,そんな抗弁が通用すると信じているのか─。

 腹を立てたところで何にもならないのはわかっている。それに,ウクライナ側も,国威発揚のために,情報を巧みに利用しているであろうから,冷静に事態を注視すべきであろう。しかし,無関心ではいられないし,いるべきではないと思う。ウクライナ戦争は決して遠い国の出来事ではなく,日本の将来にも大きな影響を及ぼすのは間違いない。ロシアは日本を「非友好国」と認定し,オホーツク海や日本海で,中国軍と何度も軍事演習を行なっており,領空侵犯も繰り返している。中国船が尖閣諸島周辺で領海侵犯し,北朝鮮のミサイルも日本海に飛来している。中国,ロシア,北朝鮮に囲まれた日本のほうがウクライナよりも危険かもしれない。

 かつてウクライナは,ロシアとアメリカに次ぐ世界第3位の核保有国だったが,すべての核兵器をロシアに譲り,80万人の軍隊を20万人に削減した。その代わりに米英露はウクライナの安全を保障すると約束したが,結果はご覧のとおり。米英は,「第三次世界大戦になるから」と助けに来てくれない。もし,中国が尖閣諸島に,ロシアが北海道に侵攻したら,やはり同じ理由で“支援はするから頑張ってね”と言われてしまうかも。「アジアのリーダー」なんておだてられて,米国の忠犬のようにくっついていれば安全だと信じてきた日本だが,今回の出来事で冷や水を浴びせられたと思う。この機に乗じて,「集団的自衛権」だの「核武装」といったキナ臭い論議がクローズアップされるかもしれない。

 そんなこんな考えていると,ますます不安になり共感疲労の度合いが酷くなってしまうおそれがある。精神科医や心理学者は,戦争報道やSNSを過度に視聴しないようにし,自分の一日の生活に目を向けることで,共感疲労のダメージを軽減できると提案している。社会人は働き,学生は学び,子どもは遊ぶ。食べられる人は食べ,稼げる人は稼ぎ,笑える人は笑う─。要は“今を生きる”ということ。また,無力感を感じるときは,道を歩いていても買い物をしていても,近くにいる人が避難民だと思って親切に接するなら,幸福感を高めることができるという。この戦争はまだ半年以上,下手をすると数年続くと推測する人もいる。共感疲労との闘いはまだ始まったばかりなのかもしれない。

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