和田 信治
社会・国際
2022-07-18
コロナウイルスの新規感染者数が急激に拡大し,16日の時点で全国で11万675人と最多。愛知県も初めて7千人を突破した。「第7波」はかなりの大波となりそうだ。オミクロン株から派生した「BA」系統の中で,感染力が高く,肺の中で急速に増殖する「BA.5」という変異株が今回の“主役”。その最大の特徴は「抗体をすり抜ける力」。顔認証システムでブロックされていた危険人物が,異なる顔に変装して検問を通り抜けてしまうようなものだという。
ただ,もともと重症化するリスクが低いオミクロンの系統のため,いまのところ政府は以前のような行動制限は求めないとのことだ。実際,一足早く「BA.5」が拡大している欧米諸国では,行動制限どころかマスク着用すらなされておらず,「コロナはインフルエンザの亜種」という認識が定着しているようだ。“ワクチンも接種したし,重症化リスクも低下している。もう2年前のような生活には戻りたくないし,戻る必要もない。食べて,飲んで,歌って,踊って,人生を楽しもう!”みたいな感じだ。
一方で,コロナウイルスがこれまでにない「しつこいウイルス」だという研究結果も発表されている。スタンフォード大学でコロナ感染者に行われた試験では,患者の4㌫において,診断から7ヶ月後にも便の中にウイルスの遺伝物質が排出され続けていた。つまり,体内のどこかにまだウイルスがいる場所があるということで,これがめまいや倦怠感,認知力の低下などの,いわゆる「コロナ後遺症」を引き起こしているとされ,米国だけで770万人から2300万人が発症したと見られている。
コロナウイルスがどれほど長く潜伏するかはまだ分かっていないが,現時点での研究結果によると,ウイルスの一部が血液から検出されなくても,脳をはじめ複数の組織で低レベルのコロナウイルスが検出されているとのこと。子どものころ水ぼうそうをにかかり,何十年後に神経系に潜伏していたウイルスが帯状疱疹を引き起こすのと同様,潜伏したコロナウイルスもいまから何十年後かにスイッチが入り,新たな疾病を発症させる「沈黙のウイルス」かもしれないと懸念されている。
何もそんなに心配しなくても,と見る向きもある。むしろ,いまはそう言う人たちのほうが大勢を占めているように思う。パンデミック初期に,重症者が巷にあふれ,医療機関が崩壊しかかったころは“コロナはカゼと一緒だ”なんて言っている人は白眼視されたが,いまでは“コロナを甘く見ちゃいかん”と訴えると“まだそんなこと言ってるのか”と嘲笑されるまでに様変わりしたが,人類史における悲惨な出来事の多くが“心配し過ぎ”“もう大丈夫”などと思っていた矢先に起きたことを考えると,やはり油断できないと感じる。
ところで,「油断」という語は3世紀に著された仏教の経典の中の「王が臣下に油を持たせて,一滴でもこぼしたら命を断つと命じた」という話から生まれた語だという。また,準備を怠ったため夜中に行燈の油が切れ,敵に襲われ命を落とすことから出たという説もある。どちらにしても,古来より油を切らすことがいかに危険なことかを物語っている。21世紀の御世になってもそれは変わらず,原油価格の高騰が諸国家を揺るがしている。
パンデミックで抑えられていた消費欲や遊興欲が解き放たれ,その需要に生産量が追いつかないうえ,ロシアが戦争を始めたせいで供給も滞るに及び,とうとう米国大統領はやむなく,人権問題で対立しているサウジアラビアに出向いて増産を督促することになった。その一方,経済制裁を受けている者同士仲良くしようということで,ロシアとイランが急接近している。また,ゼロコロナ政策を頑なに続ける中国では石油需要が過去最大の落ち込み幅だという。干ばつや洪水などの要因も相まって,原油価格はこの先も油断ならぬ予断を許さぬ状況が続く。
さて,3連休が過ぎたあと,第7波はさらに大きくなって押し寄せてくるのか,それとも,昨年の9月に「第5波」が突如として下火になっていったようなことがまた起こるのか。すべては,コロナウイルス次第。確かなことは油断しないこと。そのうえで,GS業者は,文字通りの「油」も切らさないよう注意していなければならない。
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