セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.108『廃業か、セルフか』

GS業界・セルフシステム

2006-05-22

 先日、岐阜県のある家族経営のガソリンスタンドから、「セルフに改造しようかどうか迷っているので、相談に乗ってほしい」との依頼を受けた。社長から現状について話をうかがうと、経営状態は厳しく、このままでは赤字が膨らんでゆくばかりなので、もう店をたたんでしまおうか、それとも、乾坤一擲、セルフに改造して活路を見出そうか、ということであった。

 実は、私のところへ持ち込まれる相談のほとんどがこのパターンである。『廃業か、セルフか』─経営者にとっては一大決断である。私のような者にでも、とにかく意見を聞かせてほしいと声をかけるのも無理からぬことであろう。私はその会社の財務状況がわからないし、たとえ知り得たところで専門的な指導ができるほどの知識を持ち合わせているわけでもない。いずれにせよ、決断を下すことができるのは経営者その人に課せられた務めである。

 『廃業か、セルフか』─私は廃業する事もまた高度な経営判断であると思う。「撤退せず最後の一兵まで闘う」との掛け声はカッコ良いかもしれないが、結局、回避できたはずの余計な損失や犠牲を生じさせる恐れがある。ちょうど、太平洋戦争においてサイパン島が米軍の手に落ち、日本全土はB29の爆撃圏内に入り、もはや勝敗は決したにもかかわらず、その後も一年余り無益な戦闘を続けた結果、沖縄や広島や長崎で大勢の人々が犠牲となったように─。

 確かに、見栄や面子を捨てて、自分や家族の将来のために店をたたむ事も、勇気ある決断だと思う。もちろん、廃業を勧めてばかりいては私も商売にならない。とはいえ、今後ますます競争が激しくなるガソリンスタンド業界にあって、セルフに改造すれば経営が劇的に改善されるというような調子の良いことを言うつもりもない。セルフに改造したとしても、引き続き“いばらの道”が続く。だからこそ、ローコスト・システムでなければいけないのだ。しかし、ここでも見栄や面子が邪魔する場合がある。

 「せっかく改造するのだから、敷地を広げたい、最新式のPOSを導入したい、カーケア設備も充実させたい、ゲストルームも改装したい」─夢を膨らませるのは決して悪いことではないのだが、貪欲に戦線を拡大させてしまうと、今度こそ撤退する事もかなわず、悲惨な結果を招きかねない。

 とりわけ、ゴールデンウィーク直前からのガソリンの大幅値上げは、全国規模でガソリンスタンドに閑古鳥の群れを飛来させる事となり、深刻な経営不振に悩んでおられる経営者も少なくないと聞く。(実際、私の店も今月の売上はさっぱりだ)この“恐怖体験”をいかに糧とするか。もはや、採算を度外視してまで販売量を競う時代ではなくなり、省エネや人口減少によって縮小してゆく市場でいかに収益を確保するかに関心を向けなければならない。これまで以上にコスト競争力が重要なカギとなってくるだろう。投資コストを抑え、人件費を削り、メンテナンスやセキュリティにかかるコストを極力軽減させなければ、来るべき時代に生き残ることは決してできない。

 冒頭のスタンド経営者には、とりあえずセルフ改造の計画見積を提出し、検討していただく事になった。総額1,750万円。元売や商社からすればどうということのない金額かもしれないが、一軒のガソリンスタンド経営者からすれば、大変な投資だ。『廃業か、セルフか』─日本のガソリンスタンドの多くは、いま岐路に立たされている。

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