和田 信治
エンタメ・スポーツ
2007-08-27
今年の2月にNHKで放映されたドラマ『ハゲタカ』が、先週6夜連続で再々放送された。バブル崩壊で苦境にあえぐ日本にやってきた外資ファンドのマネージャー・鷲津政彦。「世の中はすべてカネ」とうそぶき、徹底した合理主義で次々と企業を買収し、莫大な利益を生み出してゆく。そんな彼に敢然と立ち向かう、大手銀行のエリート行員・芝野健夫。古いしがらみから抜け出せずにいる企業を自主再建させようと奮闘する。二人の男の対決を軸に、企業再生のあり方を問う、第一級のエンターテインメントだ。
とにかく全編ものすごい緊張感を漂わせるドラマで、画面から目が離せない。鷲津演じる大森南朋と、芝野演じる柴田恭兵の火花散る演技合戦は、一話観終わるたびにグッタリしてしまうほどの迫力である。
この物語は1998年に、鷲津がアメリカ本社から、日本法人代表として派遣されるところから始まるのだが、1998年と言えば、日本のガソリンスタンド業界においては、セルフサービスが始まった年である。以後、この業界においても、外資流合理主義が大きな構造変化をもたらしてきた。それまでの、日本特有の特約店制度は、セルフスタンドによる元売の“直接販売”によって突き崩されてしまった。毎年、事後調整を注入しなければ生きてゆけない特約店は、厳しい価格競争の中で次々に元売から切り捨てられ、解体されていった。
しかし、いまも過去からのしがらみを断ち切れないまま、苦境に追い込まれているスタンド経営者は大勢いる。『ハゲタカ』には、外資の餌食になってゆく、そうした古き良き時代を忘れられない経営者が次々と登場する。以下、『ハゲタカ』をご覧になっておられない方には、理解しにくい文章が続くがご容赦を─。
「許せない!わたしらが百年かけて守ってきた日本の伝統を…許せない!」とつかみかかる西乃屋旅館の西野昭吾に鷲津が言う。「西野さん、あなたが許せないのは自分自身じゃないんですか?堅実に旅館経営だけをしていれば、こんな莫大な借金を抱えずに済んだはずだ」─。
債務超過に陥ったサンデートイズのオーナー、大河内瑞恵が鷲津に言う。「会社はね、右から左へ簡単に売り渡せるものじゃあないのよ!子どもと同じなのよ。そう…子どもよ…愛情がいっぱい詰まっているの」。鷲津は冷淡に言い放つ。「それじゃあ、あなたは“子育て”に失敗したわけだ」─。
「何かを変えたかったら、何もしないことだよ」と語る大空電機の会長・大木昇三郎。彼は末期ガンに侵されていた。家族主義経営に固執する瀕死のカリスマ経営者に鷲津は言う。「あなたが死んでも、大空電機は生き続けなければならないのです」─。
鷲津のドラスチックな企業買収の手法に苦杯を飲まされ、「これがお前のやり方か?!」と憤る柴野に鷲津は平然と、「だから言ったでしょう。我々は手術を執刀する外科医だ、と。あなたたちがやらないから、わたしたちがしたまでのことです」─。
『ハゲタカ』をご覧になった方なら、どの場面も記憶に残っているに違いない。「わたしの判断の基準はただひとつ。もうかるか、もうからないかだ」と語り、冷酷非情な企業買収を仕掛ける鷲津に嫌悪感を覚えた視聴者もいたかもしれない。しかし、よく考えると、彼の言っていることは、企業経営においてごく当たり前のことなのだ。人間と同じく、会社も必ず病気にかかる。治療方法はいろいろあるが、生き続けるためには、苦い薬を飲んだり、痛い手術を受けることが必要だ。ガソリンスタンドにとってのセルフ化も一種の治療手段とも言える。『ハゲタカ』は、いまだ構造不況の中にあるガソリンスタンド業界の経営者にとっても、示唆に富む教訓を与えてくれるドラマであった。
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