セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.180『主人と奴隷』

GS業界・セルフシステム

2007-10-29

 先日、あるスタンド経営者の方とお会いした。相談に乗ってほしいと言う。何で私に?と訊いたら、油業報知新聞に掲載された、このコラムの前身である「セルフよもやま話」(全30回)の第1回目から読んでくださっていて、私の考えに共感することが多々あり、今回相談してみようということになったらしい。

 彼の会社は某地方都市で数店舗のスタンド(フルとセルフが半々)を経営していたのだが、同じ元売の直営セルフの委託運営を一昨年、新たにに引き受けた。委託運営だから、販売価格は元売が決める。売れようが売れまいが一定額の委託料をもらえるのだが、その直営セルフは当時の周辺価格を10円近く下回る価格を掲出したため、その町のガソリン市況は崩壊、会社の経営は急激に悪化してしまった。彼は元売に抗議し、仕切り価格の見直しを迫ったところ、「価格調整はできないが、我々が経営改善指導をして差し上げましょう」との提案を受けた。

 その改善計画と言うのは、「おたくの会社のセルフスタンドをすべて閉めて、我々の直営セルフに顧客を集約させなさい。そうして採算が取れるようになったら、そのスタンドを委託ではなく、ちゃんとした形で運営させてあげますから」というものだった。

 温厚な性格で知られる彼もさすがに激怒し、この提案を蹴飛ばすと、元売の社員を“出入り禁止”にしてしまった。しばらくすると、その元売は社長の父親である先代社長を訪ね、「おたくの社長は我々の提案に耳をかさず、話し合いにも応じようとしない。経営者の器ではない。こうなったら、フルの店舗もすべて我々に運営させなさい。家賃をお支払いしますから」と、事実上の廃業を迫ってきた。

 「直営セルフで市況を滅茶苦茶にしておいて“経営改善してやろう”ですよ。しかもその中身は、都合よく我々を利用しようというもの。酷すぎますよ!」

 「しょうがないですよ、社長。奴ら、特約店なんてもういらないと思っているんですから。家賃収入もらって悠々自適というわけには行かないんですか?」

 「残念ながら、そこまでよい条件ではありません。それに、その約束だっていつ反故にされるか分かったもんじゃあないですよ」

 「それはそうですね。じゃあ社長はどうしたいんです?」

 「マークを変えようかと…」

 「…そういうことになりますよね。私もそう思います。そんな元売とはさっさと別れて、新しいパートナーとやり直したほうがいいですよ。今までよく我慢してこれましたね」

 「しかし、そうなると今度は、元売が直営セルフを使って猛烈な仕返しをしてくると思うんです。事実、私の知っているスタンド経営者が同じような目に遭いましてね。私の肩には十数人の従業員の生活がかかっていますから、ここは一つ熟慮を重ねたうえで決断しようということで、和田さんの知恵をお借りできたら…」

 「私はそんなに頭の良い人間ではないですよ。それに、最後に決断するのは、社長ご自身です。これだけは他のだれも代わっくれません。その上でご提案させていただけるなら、こんな風にしてみてはどうでしょうか」─。

 ここから先はオフレコ。幾ら地名や会社名を伏せても、わかる人にはわかってしまいますからね。それに、このコラムを読んでおられる方なら、単純な私のことだから“これこれこんなことを言ったのだろう”ぐらいの察しはつくはずだ。

 それにしても、元売も昨今はずいぶん居丈高になったものだな。その昔は、「言いたいことがあったらはっきり言えよ!」と特約店主たちに叱り飛ばされるぐらい奥ゆかしかったものだが、いまでは相手(しかも長年自社の製品を販売してきたお得意先)に対する敬意も礼儀もあったもんじゃない。まあ、どのみち昔から特約店なんぞ自分たちの奴隷だと思っていたのだから、ようやく本音が出てきたと言うことか。むしろ、これまで自分を奴隷だと自覚してこなかったスタンド経営者が、これからどうするかの方が問題かもしれない。

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