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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.235『ブラック・ジャックによろしく』

エンタメ・スポーツ

2008-11-24

 麻生総理大臣とは違って、私は漫画をほとんど読まない人間なのだが(というか本そのものをあまり読まないのだが)、手塚治虫だけは別格である。とりわけ『火の鳥』『アドルフに告ぐ』『陽だまりの樹』などの長編漫画を読み終えた時の深い感動は言葉では表現できないほどだ。

 手塚漫画がもたらした影響は、単に芸術の分野にとどまらず、科学や医学の世界にも及んでいる。例えば、日本のあるロボット技術開発者は、日本でいち早く介助や案内をするロボットの開発が進んだのは、欧米人がロボット・イコール・兵器や怪物といったイメージを抱いているのとは対照的に、日本人がロボットを“人間を助けてくれる優しい存在”と見ていたからであり、そのような概念が根付いているのは『鉄腕アトム』の功績だと断言している。

 医学博士の学位を持つ手塚が生み出した一匹狼の天才外科医といえば『ブラック・ジャック』。数ある手塚漫画の中でも名作中の名作だ。ブラック・ジャック(B・J)こと間黒男は、決して“よいお医者さま”などではない。相手が金持ちだろうが貧乏人だろうが、法外な治療代を要求する。「なぜ先生はあんなに高く請求なさるんです?ムチャクチャだ」と尋ねられB・Jは薄笑いを浮かべながらこう言い放つ。「そりゃあ、あんたが死ぬほどの苦しみを経験していないからですよ。苦しがってる病人は命さえ助かるなら全財産を手放したってかまわないと思う。治してもらうありがたみは本人しかわからないもんです」─。(第4巻『落とし物』より)

 私もB・Jを気取って、「私に任せればあなたのスタンドを必ずよみがえらせてみせましょう。ただし私の“治療費”は高いですよ。払えないのならあきらめなさい」なんてクールに言ってみたいものだ(無理だけど)。ガソリンスタンドをセルフに改造させるのは、大げさに言えば“外科手術”を施すようなものだ。標準的な改造でも2千万円近い費用がかかる。決して安い投資ではない。だが、それによって瀕死の状態だったスタンドが息を吹き返し、以前よりも頑健な姿に生まれ変わるのを幾度も見てきた。「思い切ってセルフ化して本当に良かった」というクライアントの言葉を聞くのは至福の瞬間といえる。

 『ブラック・ジャック』の中で最も印象深い言葉は、B・Jの命の恩人であり医者としての恩師でもある本間丈太郎の「医者は人を治すんじゃない。人を治す手伝いをするだけだ。治すのは本人なんだ。本人の気力なんだぞ!」という言葉。(第11巻『人生という名のSL』より) セルフ化の成否は“患者”である経営者本人の決断力と行動力にかかっている。私はそのお手伝いをするだけなのだ。

 B・Jの終生のライバルは、ドクター・キリコという医師である。彼は、軍医の時代に多くの傷病兵の嘆願にこたえて安楽死をほどこしてやったことから安楽死のプロとなり、不治の病の患者をめぐってB・Jとしばしば対決する。「生きものは死ぬときには自然に死ぬものだ。それを人間だけが無理に生きさせようとする」(第3巻『ふたりの黒い医者』より)などと発言し、B・Jをあざ笑う。

 すべてのガソリンスタンドがセルフ化によってよみがえるわけではない。もはや手の施しようのないまでに経営が悪化してしまったスタンドを、いかに“安楽死”させるかということも、今後ますます重要視されることだろう。計量機や洗車機などの売却、プリカや前売り券などの残金返却、廃棄物処理や土壌洗浄などの作業をいかにコストを抑えて済ませることができるか。この業界にも、ドクター・キリコのような存在が必要なのかもしれない。

 セルフ化の手術をするにせよ、コストを極力抑えつつ閉鎖する道を選ぶにせよ、それは経営者にとって大きな決断である。どちらの道も選べぬまま、出血を続け、苦しみを長引かせているスタンド経営者は少なくない。だがB・Jならこう言うだろう。「好きにすればいいさ。あんたの体だ」と─。

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