セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.258『赤ずきんちゃん、気を付けて』

オピニオン

2009-05-25

 最近、耳馴染んできたことばに「草食系男子」「肉食系女子」というのがある。サラダが好きな男や焼肉が好きな女のことではない。まず「草食系男子」とは、一般に協調性が高く、家庭的で優しいが、恋愛には積極的でない20代から30代の男性のことを指す。一方、「肉食系女子」とは、経済的に自立しており、恋愛や結婚相手を積極的に“狩り”に行く適齢期の女性のことなのだそうだ。

 ガソリンスタンド業界における石油元売と小売店の関係も、これと似た変化が生じつつある。かつて元売は小売店に対して専ら“受け身”の姿勢をとっていたように思う。シェア拡大を小売店の力に頼っていたころは、彼らとの共存共栄をはかり、事後調整などの要求にこたえてきた。しかし、近年元売は、自存自衛の「肉食系」へと転換している。もはや小売店の助けを必要とせず、自力(100㌫販社)でシェアを獲りに行く。小売店の仕切り価格をも下まわる価格で販売することもしばしばで、日本型特約店システムを積極的に破壊している。

 一方、小売店はと言えば、これまでは「油を売ってやっている」という姿勢で、押したり引いたりしながら元売から成長の原資を得てきたのだが、いまや価格決定の主導権を完全に元売に奪われてしまった。相対的に協調性が高くなり、牧草を食む家畜のように柔順になりつつある。

 『そんなことはない。オレと彼女(元売)はもう随分な付き合いを続けてきたし、アイツは俺がいなくちゃ困るんだ。この間もアイツはオレのことを「特に大切なお店です」って言ってたからな。なーに、週決め方式なんてことを始めたが、期末になればオレの言うことを聞いてくれるに決まってるよ』などと言っているGS経営者がいるなら、悪いことは言わない、すぐにその考えを改めた方がよい。あなたは、おばあちゃんに化けた狼にだまされて食べられてしまった、ずき赤のちゃんネエ、じゃなかった、赤ずきんちゃんと同じ運命をたどることになる。

 グリム童話の「赤ずきん」では、その後、満腹になった狼が寝入ったところを通りがかった猟師が気づき、腹の中からおばあちゃんと赤ずきんを助け出してくれたのだが、この童話の元ネタとなったスウェーデンの民話では、狼が赤ずきんが着ているものを一枚一枚剥ぎ取り、最後は裸にして食べてしまったという猟奇的で救いのないストーリーだったらしい。

 世界的な不況の中で、石油元売のみならず、あらゆる企業が肉食化している。すなわち、吸収・合併を繰り返し、合理化を推し進め、キャッシュフローを増強させている。そんな中で、草を反芻するかのごとく、何ヶ月も前の仕入れ価格の調整を要求するといったのんびりした商売は許されないのだ。

 弱肉強食の経済社会の中で生き延びてゆくには、すぐに肉食系に変身できずとも、少なくとも“雑食系”ぐらいには変わらねばなるまい。元売との協調によって得られるものがある限り、それはそれで上手に付き合って行けば良い。だが、元売がこれから先もずっと保護してくれるという幻想を抱くべきではない。食べる草が無くなってしまったなら、手をこまぬいていないで、虫でも、魚でも、鳥でも何でも良いから捕まえて生き延びてゆけるよう、いまから体質転換をしてゆくべきだ。ローコスト・セルフへの転換はそれゆえに必要なのだ。

 グリム童話の赤ずきんは、猟師に救い出されたあと、言いつけを守らなかったことを深く反省し、良い子になると誓う。その意味で狼は、赤ずきんがりっぱな大人に成長するための教師の役割を果たしたともいえる。この期に及んでもまだ、元売への不満を述べ立てるばかりで、自らの意志と力で変化を遂げようとしない「草食」GS経営者は、赤ずきんのような目に遭わないと目が覚めないのかもしれない。だが狼の腹から救い出され、再起できるかどうかはわからない。

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