セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.293『百貨店業界』

政治・経済

2010-02-01

 愛知県・岡崎市の中心部にあった、三河地域の代表的な百貨店、松坂屋岡崎店が1月31日をもって閉店した。百貨店業界は昨年まで売上げが13年連続でマイナスとなっている。昨年の年間売上高は7兆円を割り込むと見られており、実に24年ぶりの水準だという。業界では5兆円まで縮小するという悲観的な見方もあり、百貨店各社はリストラを加速させている。今年も、西武有楽町店や阪急河原町店、伊勢丹吉祥寺店といった百貨店業界の代表格ともいえる店舗が次々と閉鎖されることになっている。

 百貨店業界の不振のおもな要因は不景気とデフレによるものだが、それだけで24年も前の水準に逆戻りしたのではなかろう。やはり、高コストという構造体質を改善できずにいたツケがまわってきたと言わざるを得ない。百貨店は、高い人件費を支えるために、もっぱらブランド衣料品や宝飾品などの高額品を収益の柱としてきた。一部の富裕層を相手にしたこうしたビジネスモデルはもはや時代遅れとなり、気が付けば百貨店の若者離れが進行、彼らは百貨店を待ち合わせの場所としてしか利用しない。頼みの綱の富裕層も、リーマンショック以降、財布の紐を固くしたままだ。

 百貨店衰退の構図は、ガソリンスタンド業界のそれとよく似ている。とりわけ、多くのフルサービスのGSは、「優良顧客」と称する、ガソリンの価格に無頓着なうえに“クルマのことはすべてお任せ”とばかりに油外商品を気前良く買ってくれるお人好しの客に過度に依存する傍ら、価格に敏感な客を「質の低い客」として蔑視してきた結果、セルフスタンドにごっそりとシェアを奪われてしまった。一方、セルフスタンドはといえば、石油情報センターの調査によると、フルサービスよりもセルフサービスのGSのほうが1店舗あたりの従業員数が多いというわけのわからない運営形態をとっている。

 セルフスタンドでアテンダーと称して配置されているスタッフは、さしずめ、エレベーターを操作しないエレベーターガールのようなもので、百貨店以上にムダなコストを費やしているように思える。もちろん、彼らはただアテンドするだけでなく、客とのコミュニケーションをはかりながら油外商品を販売する役回りも担っているのだが、百貨店同様、客は本当に必要なものしか買わず、必要なものでも高ければ買わない。多くの客の頭の中は、自分の老後や子供の養育に対する不安で占められているのだから、そう簡単に洗車などするはずもない。そのような萎縮した消費者の思考を理解せぬまま、相変わらずの受け入れ態勢を維持し続けるなら、もはや生き残りはかなわないだろう。

 百貨店の店舗閉鎖は、これまではもっぱら地方都市の中小規模店が中心だったが、これからは西友有楽町店のように、大都市の大型店舗がその対象となるという。好立地にあぐらをかいてきた店舗も、いまや淘汰の波を免れることはできないのだ。GSも同様だ。むしろ、好立地の大型店舗ほど、不況のあおりをモロに受けている。運営コストが重くのしかかり、ちょっとやそっとの経営努力では利益が出せない状況に陥っている。

 百貨店には、単なるショッピングモールではなく、「生活と文化を結ぶ」役割を果たしてきたとの自負がある。百貨店に行けば、新しい生活様式や物質文化に触れることができ、それが顧客の消費マインドをいっそう刺激し、売上げの増加へと結びついていった。だが、それはもはや過去の栄光に過ぎない。GS経営者の中にも、依然として「カーライフビジネスを通じて地域の情報発信基地となりたい」とか「まごころのこもったサービスでドライバーの憩いの場所を提供したい」といったせりふを大真面目に語る人がいる。もはや、百貨店に求められるものも、ガソリンスタンドに求められるものも、変質しつつあることに気づくべきだろう。小売業の頂点に君臨していた百貨店業界の今日の姿は、GS業界にとって貴重な反面教師となっているように思う。

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