セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.355『現場視察』

政治・経済

2011-04-25

 今月21日,菅首相は福島第一原発周辺の住民が避難する避難所を訪れた。先の見えない避難生活への不安と,政府の対応への苛立ちから,住民たちは首相に次々と怒号を浴びせた。「来るのが遅すぎる!」「もう帰っちゃうんですか!」「内閣でああだのこうだの言っているんなら,その人たちみんなここへ連れて来て,ここで生活してみてください!」─。

 確かに,被災者が怒りの矛先を首相に向けるのはやむを得ない感情かもしれない。しかし,「ここで生活してみて」と言われても,本当にそんなことされたら困ってしまう。首相にはやるべき仕事があるのだから。そのそも,首相が震災翌日にヘリで被害状況を視察した際には,最高指揮官が対策本部を離れるとは何事だ,と避難された。現地に行けば行ったで批判され,行かなければ行かないでもっと非難される。指揮官とはそういうものなのだ。

 確かに,指揮官が現場へ赴くということは意義あることだと思う。例えば,先月29日には,日産自動車いわき工場をカルロス・ゴーンCEOが訪問し,撤退をきっぱりと否定すると共に,遅くとも6月初めには工場をフル稼働させると宣言し,社員の士気を大いに鼓舞した。しかし,タイミングを間違えたり,空気を読み損なったりすると,先ほどの菅首相のように,不満や非難の集中砲火を浴びるということになってしまうのだ。

 GS経営者にとっても,現場視察は大切な仕事だ。実際にGSに出向き,そこでの観察や,スタッフとの意見交換を通じて得るものは決して小さくない。現場に行ってみてはじめて理解できることも多々ある。事実,GS経営の知恵は,石油元売のオフィスにおいてではなく,GSの現場において培われてきたと言って良い。

 だが,一方で,現場というものはしばしば保守的で,面子にこだわり,改善を嫌う傾向にあるのも事実だ。例えば,東京電力の原子力部門は「原子力村」と呼ばれほど独立性が強く,社長でも御しきれない部門だったと報じられている。かつての関東軍の如きそうしたおごりと独善性が,ベントの実施や海水注入などの措置を遅らせ,事態を深刻化させたと見られている。

 我々GS経営者も,今までのやり方を修正するよう現場に迫ると,古参スタッフから「社長はご存じないかもしれませんが…」と切り出され,現場をよく知る我々の考えのほうが正しいと抵抗されたことが一度ならずある。事実,現場の意見を尊重したほうが良い場合もあろうが,時には,現状を冷静に分析し,実体を把握し,彼らの言い訳を見抜いて欺かれないようにしなければならない場合もあるのだ。

 仮にセルフ化を推し進めようとする時,現場責任者が,「そんなことしたら絶対に販売量が減ると,みんなが言っていますよ!」と,大げさな表現をして“脅し”をかけてくることがある。では,「絶対に」と言い切れる根拠は何か,「みんな」とは一体何人のひとが言っていることなのかなどひとつひとつ問い質し,論ばくしながら,現場の抵抗に立ち向かってゆかねばならない。

 現場を信頼することは大切だが,信頼し過ぎないことはもっと大切だ。また,現場に出向くことは有意義なことだが,一方で,客観的な観察眼を眩まされて“現場ボケ”になってしまわないよう気をつけなければならない。「現場」とはそういう所なのだと思う。

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