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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.361『もしドラ』

エンタメ・スポーツ

2011-06-06

 ひょんなことから,万年予選一回戦負けの高校野球部のマネージャーとなった女子高生みなみは,具体的に何をすればよいのか解からず,本屋でマネージャーについて書かれた本を探し,経営学の巨人・ドラッカーの著書「マネジメント」を手にする。彼女はサポート役を意味する“マネージャー”と,経営者を意味する“マネジャー”を勘違いしてしまったのだ。

 間違いに気がついたみなみだったが,いざ読んでみると,企業を取り巻く環境と,野球部を取り巻く環境には少なからず共通点があり,野球部をマネジメントすることができるということに気づかされる。それ以来,野球部で問題点が見つかるたびに「マネジメント」からヒントを得て改善して行き,野球部の甲子園出場を目指していくのだった─。

 小説『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』─略して“もしドラ”。とっつきにくい経営学を,高校野球部を舞台にした青春物語に置き換えて解説するという大胆なアイディアが受けに受け,2009年12月に発売されて以来,現在までに250万部を突破する大ベストセラーとなっている。

 例えば,みなみたちは,「イノベーションの戦略の一歩は,古いもの,死につつあるもの,陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。イノベーションを行う組織は,昨日を守るために時間と資源を使わない。昨日を捨ててこそ,資源,特に人材という貴重な資源を新しいもののために解放できる」というドラッカーの理論に則って,「送りバント」と「ボール球を打たせる投球術」を「古いもの,死につつあるもの」であるとして捨て,「ノーバント・ノーボール作戦」を思いつく。これによって,打者も投手も,やるべきことが絞り込まれて,他の練習に専念するようになり,チームは目覚ましい成果を挙げるようになる,といった具合だ。

 野球好きの人間に言わせれば,ふざけるなと言いたくなるような話だが,要はイノベーションとは,過去の成功体験を払拭し,いままでセオリーと信じられてきたことを見直すことなのだというドラッカーの教えをわかりやすく説くための方便である。確かに“言うは安し,行うは難し”で,多くのガソリンスタンドの経営者も,“このままではイカン,新機軸を打ち出さねば”と考えてはいても,実際のところは,「昨日を守るために時間と資源」を費やしているように思う。

 ドラッカーは,「あらゆる意思決定と行動がそれを行った瞬間から古くなりはじめる。したがって正常の状態に戻そうとすることは不毛である。“正常”とは昨日の現実にすぎない」とも述べている。GS業界では,毎月のように市況を“正常”に戻そうとの試みがなされているが,ドラッカーに言わせれば,そのような行為からは,何ら新たな発展や価値は生み出されないということになる。事実,GS業界は慢性的な構造不況にはまり込んだままだ。

 『もしガソリンスタンドの経営者がドラッカーの「マネジメント」を読んだら』,自分たちがやっていることがあまりにも「陳腐化」していることに絶望し,やる気を喪失してしまうことにもなりかねないので,読まないほうがいいのかもしれない…。

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