セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.375『安土城』

GS業界・セルフシステム

2011-09-12

 先日,4年ほど前から親交のある東北地方のGS経営者A氏が,ドライブ旅行の途中にわざわざ立ち寄ってくださった。何でも,安土城跡を見物しに行った帰りだという。「このあいだ家内が一週間北海道に旅行に行ってきたんで,今度はとうちゃん行っておいでよというわけで休暇をもらったんです。せっかく滋賀県まで来たんだったら,和田さんところにも寄って行こうかなと思いまして」─。

 安土城は“本能寺の変”のあとまもなくして,何らかの理由で焼失,その後も名古屋城や大阪城のように復元されることもなく,城跡を残したまま今日に至っている。「城跡を見物して“俺もいつの日かりっぱな城を建ててやるぞ”と奮い立つ経営者と,“つわものどもが夢の跡。やはり身の丈に合った堅実な経営をしよう”と自戒する経営者の,大雑把に二種類に分かれると思うんですけど…やっぱり,我々は後者ですよね」「ホントホント,店舗を増やそうとか,車検工場おっ建てようとか,コンビニを併設させようとか…まあ,監視室で一日ぼーっと店番していると,時々そういう誘惑に襲われるんだけど,そのたびに“イカンイカン,ローコスト,ローコスト”って言い聞かせてるんですよ」「何もしないでじっとしているのも結構大変ですよね~ワッハッハッハ」─。

 何という能天気な会話だと思われるかもしれないが,彼も私も,ローコスト・セルフに辿り着くまでには,いろいろな事をやり,挫折や失敗を繰り返してきた。たとえば,A氏の場合は,かつてはGSを3ヶ所のほかに,コンビニと板金工場も経営していたのだが,いまではセルフ1ヶ所,フル1ヶ所のスタンド経営のみ。「本当はフルサービス店も面倒くさいからたたんじゃおうかなとも思ったんですが,いまのところ黒字なので…」─。

 かつては油外収益にも情熱を注ぎ,洗車機メーカーの主宰する道場で“師範”を務めるほどの実績を誇ったが,その時からすでに,見た目は派手だがコストばかり掛かって儲からないスタンド経営に疑問を感じていたという。A氏と私は,インターネットを通じて意気投合,ローコスト・セルフ経営の“同志”として気脈を通わせている。とにかく二人とも,威容を誇る城を建てるよりは,地下深くに塹壕を掘ることを好み,連合艦隊の司令官よりも,潜水艦の艦長のほうが性に合っているという考えの持ち主だ。

 わたし自身も,かつて早逝した父の跡を継いで,愛知県で十数店舗を運営するGSチェーンの経営を経験し,元売りと二人三脚で,ありとあらゆる事を試みた挙句,力及ばず13年前に廃業し,心機一転,ローコスト・セルフスタンドの経営者へと“宗旨替え”して,今日に至っている。

 そう言えば,当時,滋賀県にある同系列の特約店で“優等生”と目され,全国表彰の常連だった会社が,先ごろ倒産した。詳細は知らないが,大型セルフ店舗の出店,整備工場の展開,中古車販売への参入など,いまどき“普通のGS”がやっている普通のことを一生懸命やっていくうちに経営が圧迫され,安土城と同じ運命をたどることになってしまった。

 そんな話をしながら私たちは,とにかく世間からあざけられようが,無視されようが,自分が信じた道を歩み続けるしかない,決して楽な商売ではないが,何とか耐え忍んで生き残りましょうと互いに励ましあい,別れ際に固い握手を交わしたのだった。ワシもどこかへ旅行に行こうかな…。

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