セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.414『アルバイト社長』

GS業界・セルフシステム

2012-07-02

 牛丼大手・吉野家ホールディングスの社長が,20年ぶりに交代する。62歳の現社長・安部修仁氏の跡を継ぐのは43歳の河村泰貴氏。2007年に傘下のうどん店チェーン「はなまる」の社長に就任し,赤字続きだった同社を黒字化させた手腕が評価されての抜擢だという。

 吉野家HDは売上高が2期連続で減収となるなど厳しい経営状況にあり,若返ったリーダーのもとで経営再建に取り組むことになる。しかし,この社長人事が注目を集めるのは,次期社長が現社長に続きアルバイト出身であるということだ。現社長の阿部氏は,大学在学中に吉野家でアルバイトとして働きながらR&Bバンドを結成し活動していたが,音楽の道をあきらめ吉野家に入社した。1980年に同社は倒産したが,セゾングループの出社により再建され,1992年に42歳の若さで社長となった。

 今回その跡を継ぐ河村氏は,広島の高校を卒業後5年間吉野家のアルバイトとして現場で接客を経験し,1993年に入社した“たたき上げ”である。東証1部上場企業において非正規雇用出身者が経営トップに就くのは非常にまれで,2代続けての就任は他に例がない。

 GS業界では,現場での経験と実績がモノを言う。大学で教わることなどはあまり役に立たない。というか,むしろ邪魔になるのではないか。よくある事例として,GS経営者の子息が,大学卒業後,系列の元売に就職(させてもらって),元売の洗脳教育を経て晴れて家業のGS経営者となったものの,現実は元売で教えてもらった事とは大違い,マニュアルにある杓子定規の接客は功を奏さず,手間隙掛けて作り上げた販売プログラムも空振りの連続,従業員にはソッポを向かれ,「オレは一体何を学んできたんだろう」と頭を抱え込んでしまう─。

 「事件は会議室で起きているんじゃない!現場で起きているんだ!」というのは,ご存知,「踊る大走査線」で織田祐二扮する青島俊作が吐く名セリフだが,現場の空気や息遣いを理解できず,机上の論理だけで経営を実践しようとしても,まず成功しないだろう。そういう意味においては,アルバイトとして現場でのノウハウを体得した人間の方が,実際的なマネジメントを行なうことができるかもしれない。

 しかし,現場経験が絶対に必要かといえばそうとも言えない。セルフスタンドの運営において,フルサービスでの経験が長い人間が関わると,ローコスト経営の邪魔になる場合が多々ある。特に,過去の成功体験から抜け出せないでいると,セルフにしたにもかかわらず,『給油以外はフルサービス』という訳のわからない業態となり,かえってコストが増えるという結果を招いてしまう恐れがある。

 現在のGSの経営者や幹部の多くは,フルサービス時代の実績でいまの地位に就いた人たちだ。若いころ,汗だくになりながら集客キャンペーンで声を枯らし,ノズルを握った経験がそれらの世代の“勲章”だ。しかし,セルフの時代となり,業界全体がたそがれ時を迎えたいま,相変らずその時の感覚だけを頼りにGSを経営してゆくことは,十字砲火の中に,三八式歩兵銃で白兵突撃するようなものだ。勇ましく潔いかもしれないが,結局は無残な敗北を喫することになろう。

 そんな退役将校のような人ではなく,いま「現場」で何が起きているかを理解している最前線の兵士のほうが有用ではないか。いっそのこと,社長の仕事を時給制にして,アルバイトやパートタイマーにやってもらうGSがあってもいいかもしれない…。

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