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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.429『iPS細胞』

社会・国際

2012-10-15

 京都大学の山中伸弥教授が,iPS細胞の開発に成功した功績により,今年のノーベル賞・医学生理学賞を受賞することになった。iPS細胞とは,「人口多能性幹細胞」の略で,様々な細胞に変化・増殖させることが可能な“万能細胞”なのだ…そうだ。ちなみに,なぜ「i」だけが小文字かというと,広く普及してほしいとの思いから,「iPod」にあやかってそうしたのだとか。

 iPS細胞は,いままでは不可能とされていた病気や怪我で失われた臓器や組織を修復する再生医療の切り札といわれている。これまでは,受精卵から作り出すES細胞が万能細胞として期待されていたが,iPS細胞は受精卵を必要としないため,移植後の拒絶反応を引き起こすリスクが押さえられるうえ,倫理的問題も生じない…らしい。

 サイエンスの分野はまったく苦手な私にとって,同じ1962年生まれの日本人が開発した“万能細胞”がどれほどすごいものなのか想像もできないが,例えば,事故で片腕を切断されてしまった人が,その人の皮膚細胞をもとにして作られたiPS細胞を移植されることによって,トカゲの尻尾のようにまた腕が生えてくるということなのかしら…。

 しかし,iPS細胞にも“闇”の部分はある。それは,この細胞の増殖を促す“触媒”の役目を果たすのが,ガン細胞であるということだ。iPS細胞を作る際に組み込まれる4つの遺伝子のうちの一つは,ガン遺伝子なのだ。人を死に追いやるがん細胞と,再生医療の切り札とされる万能細胞とが表裏一体とは何とも皮肉な話ではないか。

 しかし,こういう発想自体は素晴らしいなとも思う。悪や害とされてきたものの構造や性質を研究し,それを転用して良いものを生み出すという発想。知的レベルはぐんと落ちるが,我々の業界でも応用できないものだろうか。例えば,いまだにPBスタンドは,業界においては市況を破壊する悪玉と目されている。しかし,彼らがなぜ系列店の仕入れ価格並みの売り値で販売してもなお経営を続けてゆけるのか,真剣に研究する人は少ない。PBに転身せずとも,その仕入れノウハウやコスト管理を学び取り,自社の経営に“移植”しようという発想はないのだろうか。

 同様に,いわゆる「給油のみセルフ」という蔑称で呼ばれている店についても,その“抵抗力”の強さをきちんと調べてみてはどうだろうか。セルフでも油外収益をあげなければ成り立たないというのが“通説”だが,本当にそうだろうか。もしかすると,それにかかる設備費や人件費をカットしたほうが経営状態は良くなるということはないだろうか。窓拭き用のタオルや吸殻などを捨てるゴミ箱を取っ払っちまった方が,余分なコストを減らせるのではないか。クレジットカード決済が出来なければダメだというが,手数料負担やシステムエラーのリスクは妥当なものだろうか─などなど,従来ならば,業界の中で,“やってはいけません”的なことをあえてやったほうがいいという場合もある。私自身は,そうやってここまでやって来た。

 だが,GS経営と違って,事が人の命にかかわる問題となると,そう簡単ではない。繰り返しになるが,がん細胞を応用させて細胞を再生させようなんて,素人から見ればあまりにもリスクが高いように思える。山中教授自身,2009年にジャーナリストの立花隆との対談で,人類は進化の過程で長生きをするためにがんの増殖リスクを抑える道を選び,そのために泣く泣く再生能力を捨てたのだと思う,というようなことを述べている。そんな根拠のない仮説に基づいてこの研究を進めていって本当に大丈夫なのかと心配になる。

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