セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.431『ハインリッヒの法則』

GS業界・セルフシステム

2012-10-29

 危険物の保安講習で繰り返し出てくる言葉に「ハインリッヒの法則」というのがある。米国の損害保険会社の安全技師だったH・W・ハインリッヒという人が1929年に労働災害発生確率の分析結果を論文に発表したものだが,それによると,1件の重大事故の裏には29件のかすり傷程度の軽災害があり,その裏には300件もの“ヒヤリ・ハット”した傷害のない災害が発生しているというのだ。

 いうまでもなく,危険物を扱うガソリンスタンドにおいて絶対に起こしてはいけない事故と言えば火事である。近年は皆無に近いが,まだセルフスタンドが少なかったころは,くわえタバコで車から降りてくる客がいて,あわてて注意したことが時々あった。注意された客が逆ギレして吸い殻を床に投げつけたので,“逆々ギレ”してどやしつけたこともあったな~。そういうアホが300人もいようものならいつか大事故が起きる危険性があるわけだから,断固たる態度で臨まねばならない。

 当初,客自身が給油するセルフスタンドでは事故が多発するのではないかと懸念されていたが,杞憂であったことは誰もが認めるところだろう。そもそもGSスタッフといっても,特別な技術や知識を持っているわけでなく“ユニフォームを着て給油する人”に過ぎない。客自身が給油しても何ら問題はなく,むしろ安全であると言える。なぜなら,一年に300回もセルフ給油をする客はごく稀だが,GSスタッフであれば1週間ぐらいで300回を優に越える給油を行なっているはずだ。給油作業に習熟しているので安全という見方もあるが,やはり人間なのだからそれだけミスを犯す機会も多くなっているはずだ。油種を間違えそうになったり,キャップを締めそこなったり,油をこぼしたりしたことなどただの一度もないというGSマンがいたらお目にかかりたい。結局,災害の主たる原因はヒューマンエラーであり,セルフスタンドは顧客一人ひとりに給油させることによってリスクを最大限に分散させているのである。事実,ある保険会社の人が,「わたしたちは,セルフよりフルの方が事故頻度が高いと分析している」とこっそり教えてくれた。

 「ハインリッヒの法則」は,ビジネスにおける失敗発生率にも応用されている。事故を顧客からのクレームに置き換えた場合,1件の大失敗の裏には,29件のそれに類するクレームがあり,なおかつ苦情を言わないが不満を感じている300人もの顧客がいるというのだ。では,私の店にこれまでにどんなクレームが寄せられたかと言えば,一番多いの『もっと安い店があるぞ』というもの。恐らく大半のスタンドにおいて,これがクレームの最上位ではないだろうか。だが,確かな裏づけのあるものとそうでないものがあるので気をつけなければならない。苦情を言えば幾らかでも安くしてもらえると思っているたちの悪い客もいるので要注意。それに,どう考えても採算が取れない価格で販売している近所の元売販社GSの価格に合わせていたら,こちらの身が持たない。

 しかし,『真の顧客満足は価格ではなく接客サービスだ』なんて信じ込んで“適正価格”で突っ張っていると,いつしか来店客が減って行ってしまうだろう。ある日,業転価格が自社の系列仕入値と比べて5円も6円も安いのを知って“ヒヤリ”としたなら,PBスタンドの道を現実的に計画すべきだと思う。一日中店頭で笑顔を振りまき,声を枯らして接客と給油に励んでも,一向に客足が伸びない現実に“ハット”したなら,ローコスト・セルフシステムの導入を真剣に考えるべきだと思う。重大事故(廃業・倒産)が発生してからでは手遅れなのだ。

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