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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.469『契約社会』

オピニオン

2013-08-05

 7月28日の日曜日,ニューヨーク・ヤンキースは松井秀喜と「ワンデイ・コントラクト」,つまり一日だけの契約を交わすと共に,ヤンキースタジアムで「引退セレモニー」を行なった。ヤンキース在籍7年間の松井のキャリアの頂点といえるのは,やはり2009年のワールドシリーズで13打数8安打3本塁打8打点と打ちまくり,ヤンキースを9年ぶりの世界一へと導き,シリーズMVPに輝いたことだろう。

 ところが,ヤンキースはこの年,契約満了を迎えた松井との再契約に応じることなく解雇を通告,以後松井は毎年違う球団を渡り歩きながら,3年後に引退することになったのである。一度は“戦力外”とした選手のためにヤンキースはなぜ特別待遇の「引退セレモニー」を行なったのか。一方,冷たい仕打ちをされた球団からの申し出に,なぜ松井を喜んでこたえ応じたのか。FA制度が導入されてすでに20年を経ても,いまだ“生涯一球団”のこだわりを捨てきれない日本の保守的な野球ファンには理解に苦しむ出来事だったようだ。

 野球に限らず米国は契約社会。終身雇用なんてものはとっくに崩壊してしまっている。優秀な人材であればあるほど,複数の企業を渡り歩くのが当然視されており,むしろずっと同じ企業に勤めているのは“潰しが利かない”ことの証明だったりもするようだ。したがって,「生え抜きで生涯一球団でないと裏切り者」というカルチャーは米国にはない。 チームの若返り構想や,総人件費の抑制のために解雇されたとしても,松井個人としてのリスペクトは残る─それが「契約社会」の感覚なのである。

 日本の様々な業種の中でも,比較的米国的とされている石油業界だが,川下のGS業界はといえば,まだまだ“浪花節”の社会だ。創業以来,同じ系列のマークを掲げていることを“誇り”としている「生涯一元売」経営者はいまも少なくない。だが,一方の元売はと言えば,“永年取引”を表向きは称えながらも,感謝状一枚と記念品をくれるだけで,それ以上の事は何もしてくれない。もし,自分の会社が,元売から必要とされているかどうか疑問を感じたら,「FA宣言」をしてみれば良い。元売が「残留」を希望していれば,それなりの「条件」を出すだろうし,何も出なければ,それだけの価値しかないということになる。

 公取から「業転を買うのを認めてあげなさい」と勧告された以上,元売は卸価格のルールを厳格化させ,特約店との「契約社会」の確立を強化してゆくことだろう。だが,それがGS経営者にとって不利なことかと言えば,そうとは言えない。もう右手に請求書,左手に業転の見積書を持って元売と価格交渉するような面倒なことをする必要はなくなる。両者のあいだにあるのは「契約書」だけだ。契約どおりに取り引きができなければ,あるいは契約の期限が満了すればそれは破棄され,新たな契約を結ぶか,別の人と契約するかどうかということだ。後腐れが無くて良い。

 石油元売も,移籍してゆく特約店を「裏切り者」呼ばわりするのではなく,「今後は業転ルートでウチのガソリンを買ってくれませんか」と,新しい契約書を持ち出してくるぐらいのしたたかさが欲しい。「契約社会」と聞くと,固くて冷たいイメージを抱きがちだが,むしろ,その契約の内容や運用次第で,ずっと多様で柔軟な商売ができるのではないかと思う。

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