セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.495『野口石油』

GS業界・セルフシステム

2014-02-10

 ロバート・オウエンという人物をご存知だろうか。産業革命期の英国の資本家で,工場で酷使されていた子どもへの教育の必要性を提唱し,保育所の始まりとされる施設を創設したことなどでも知られているという。オウエンのような博愛主義を実践する経営者を表彰しようと,奈良県の市民団体が2012年に設立した「現代のロバート・オウエンを探す会」が,このほど北九州市で3ヶ所のガソリンスタンドを経営する有限会社 野口石油社長・野口義弘氏(71)に「第一回現代のロバート・オウエン賞」を授与した。

 野口氏は,北九州市のGSチェーン勤務を経て1995年に独立。以後,非行歴のある少年少女を100人以上もGSスタッフとして雇用し彼らの更正を支援してきた,地元ではつとに知られた人物らしい。私は今回の受賞の記事を新聞で読むまで,野口氏のことも,ロバート・オウエンのこともまったく知らなかった。野口石油はすでに幾つものメディアで取り上げられており,それらを視聴すると,人を信じるということがいかに尊く,いかに難しいことかを思い知らされる。

 けんかや万引きに明け暮れ,少年院に入れられた少年を雇い入れたものの,店の売上を持ち逃げされ,少年は再び少年院へ。少年院から送られてきた手紙には,出所したら今度こそ真人間になって野口社長のもとで働きたい,もう一度だけチャンスをもらえませんか,と書かれていた。野口社長は周囲の不安をよそに再びその少年を受け入れる。ところが,少年はまたも会社の売上に手をつけてしまった。

 普通なら,恩を仇で返されたと憤りがこみ上げてきて,もう前科者など雇うものかと思うものだが,野口社長は「何度裏切られてもあきらめない」と,本人が望むなら何度でも雇い直すのだという。また,“信じることは任せること”との信念から,経理事務をおかず,在庫や売上金の管理もすべて従業員に任せているのだという。事務室に監視カメラはない。無防備すぎるのでは,との問いに野口社長はこう答えている。

 『お金の持ち逃げが発生したこともありましたが,それを恐れたら子どもたちの成長はストップします。事件が発生したときこそが社員教育の出発点であり,成長の始まりではないでしょうか』─2011年6月7日付「ネットアイビーニュース」

 凄い。凄すぎる。こんな人が存在する,しかも同じ業界にいると思うと,自分がとてもちっぽけな人間に思えてくる。では,自分も同じことをしたいかといえば,やはり無理だと思う。厳しい価格競争を生き残るためには,人件費コストを抑えることが要諦であると考える私にとって,非行少年たちを更生させながらGSを経営するなどというのはあまりにもリスキーなことである。

 野口社長が独立した1995年は,GSの淘汰が本格化し始めた時期であり,経営者が4回も代わった不採算店を譲り受けるという厳しいスタートであった。当初は毎月80万円の赤字を出していたが,ポリマー洗車に活路を見出した。仕上がりに徹底的にこだわった洗車が評判を呼び,不採算GSを優良GSへと変身させた。野口社長は,「子どもたちが信頼に応えて一生懸命やってくれる」と語る。やっぱ凄い。日本中のGSがセルフになっても,野口石油だけはいまのスタイルを貫いてほしいと思う。

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