和田 信治
GS業界・セルフシステム
2005-04-19
「お客様に感動を与えるサービスを!」─新入社員の入社式で、社長サンがよく口にするせりふである。ガソリンスタンド業界でも、このフレーズはしばしば用いられている。それにしても、お客様に感動を与えるサービスって一体どんなサービスなんだろう。それは、お客様一人一人の状況に応じて融通を利かせた接客によってもたらされる、というのが一般的な答えだろう。しかし、言葉にするのは簡単だが、そんなハイレベルな接客センスはそう簡単に身に付くものではない。身に付けたとしても、それを維持してゆくことは非常に難しい。
経営コンサルの先生方は、この論題になるとすぐ、何とかの一つ覚えで『東京ディズニーランドでは…』とやり出すのだが、あの「夢と魔法の国」で働くスタッフと同等のモチベーションをガソリンスタンドのスタッフに求めるというのは無茶というものだ。客も、ガソリンスタンドにそんな過大な期待を抱いてはいない。わたしは、ガソリンスタンドが接客によって「感動を与える」ことに懐疑的である。
そもそも、客が接客による感動を求めているなら、どうしてこれほどまでにフルスタンドがセルフスタンドに駆逐されているのか。近所のライバル店がセルフにすると聞いたら、本当は喜ばなければいけないはずだが、戦々恐々とする有様。おやおや、価格じゃなくて、「感動を与えるサービス」とやらで勝負するはずじゃなかったの?
では、セルフには何の感動もないのかと問われれば、そんなことはない。まず、給油中にあれはいかがですか、これはどうですかと声を掛けられることがなくなり、無理をしなくてよくなった。10㍑だけとか、千円分だけといった給油も気兼ねなくできるようになったことは、どれほど多くのドライバーの心に安らぎを与えていることだろう。
また、セルフスタンドではすべての客が平等である。高級外車に乗った金持ち奥様も、原付に乗った貧乏学生も、皆自分で給油ノズルを握らなければならない。ピラミッドのてっぺん部分の客だけが優待されるような、あるいは、声の大きな客だけが特別扱いされるようなことはない。何とさわやかなことではないだろうか。
そして、何といっても、セルフ化によってコストが抑えられた結果、ガソリンの価格破壊は一段と進み、消費者にとって最も“感動的なサービス”を提供している。中にはサービスし過ぎて、採算が取れなくなってしまっているスタンドもあるようだが…。
このように、これまでガソリンスタンドに存在していた「ムリ、ムラ、ムダ」をなくすことで、セルフスタンドは多くの人々に支持されてきたのである。そしてこのトレンドは、今後ますます定着してゆくだろう。もはやこの流れを変えることはできない。入社式で「感動的なサービスを」と訴える経営者は、その意味を具体的に述べるべきだ。それができないのなら、このセルフ時代にあって“感動”などという言葉を使えば使うほど、現場のスタッフは戸惑い、苛立ち、やがてシラけてしまうことになるだろう。ガソリンも、感動も、無闇に安売りすべきではない。
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