セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.559『エアインフレーター』

オピニオン

2015-05-25

 昨年の11月に,私の店のエアインフレーターが故障してしまった。15年前に閉鎖されていた店舗を借りて営業を始めた時,すでに設置されていたもので,結構な“年代物”であった。メーカーに問い合わせると,案の定,修理部品の在庫が無いとのこと。同等の新しい機器を買うと12万円ぐらいかかる。ネットで中古品を探したのだが,適当な物が見つからなかった。

 洗車機や計量機と比べれば,大した金額の設備ではないが,タイヤの空気は,セルフで充填してもらうとはいえタダ。一日に平均,何台ぐらい利用していたかきちんと統計を取ったことなどなかったので,タイヤの空気充填サービスの有無と,来店客数との相関関係もよくわからないし,この際,サービスを廃止することにした。

 こういう時,現場のスタッフは往々にして反対するものだ。「そんなことしたらお客がガクンと減っちゃいますよ」─。では,その「ガクン」というのは,何㌫ぐらいのことなのか。12万円の投資をし,なおかつタダで使わせてもなお余りあるメリットが何円ぐらい見込めるのか。私を翻意させるに足る数値的根拠を示せる者はだれもいなかった。

 折りしも,12月に滋賀県甲賀市のフリートGSで,大型トラックのタイヤに空気を入れていたところタイヤが破裂し,その衝撃で吹飛ばされた49歳のGS従業員が死亡するという事故が起きた。そこまでの事故でなくとも,やはりセルフ充填でお客さまが怪我をする危険性がゼロとはいえない。そんなわけで,「空気充填サービスは終了させていただきました」との看板を塀に貼り付けて,インフレーターを撤去した。

 しばらくして,お客さまからどれぐらい苦情を受けたかスタッフに聞いてみると,「しょっちゅう言われますよ」という返事。では,「しょっちゅう」というのは一日何人ぐらいのことかと問うと,やはり明確な数字が帰ってこない。そのうち今度は,看板の上に,「店主さま,空気充填サービス再開させてくれなければ,もう給油に来ませんよ。お客一同」との張り紙が。姑息なことをしやがって。そもそも「お客一同」ってなんだ? もし,本当にうちに来る客の総意であるというなら,署名入りの嘆願書を持って,正々堂々と申し込んでくればよかろう。

 私は「ガクン」とか「しょっちゅう」とか「みんな」といった,抽象的かつ感情的で,誇張された表現が嫌いで,少々ムキになって反撃したくなるきらいがある。数値化できる事象は,極力数字で説明すべきだ。例えば,「一生懸命頑張ります」という表現は,世の中でもっとも信頼できない誓約である。数字として結果を出した後であれば,「頑張った」との評価も与えられよう。だが,やる前には具体的な目標数値を掲げるべきであり,それが達成できなかった場合も,論理的な説明がなされてしかるべきだと思う。「頑張ったけれど駄目だった」では駄目なのだ。とはいえ,採算といった重要な数値ファクターを無視して,ヒステリックな値下げ競争を年中繰り広げているこの業界では,物事を論理的・数学的に考えるという感覚は麻痺してしまっているのかもしれない。

 さて,今月に入り,町内の自治会長さんが訪ねて来られた。過日行なわれた自治会で,うちが空気充填サービスをやめてしまったことが話題となり,町内で少しづつでもお金を出し合って,機器を設置してもらうようにしてはどうかという意見まで出たのだという。そこまで言われたんじゃあ,GS経営者としての名が廃ると言うものだ。たまたま,ヤフオクで中古品が2万円で出品されていたので落札し,サービスを再開させてもらった。感情的な言葉を忌避するくせに,案外情にはもろいのだ。

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