セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.577『フォルクスワーゲン』

政治・経済

2015-09-28

 いまから108年前(1907年)の10月1日に,米国フォード・モーター社がT型フォードの販売を開始した。T型フォードは,「フォードシステム」と呼ばれる,ベルトコンベアによる流れ作業方式によって製造された最初の自動車であり,その後の工業技術や経済システム,労働環境や社会生活などにも多大な影響を与えた,20世紀最大の発明と呼ばれている。

 T型フォードは機能性の高さと価格の安さが大衆に支持され,爆発的なヒット商品となり,1927年まで,基本的なモデルチェンジのないまま,1,500万台以上が生産された。だが,この記録は1938年にヒトラー政権下のドイツで生まれた,フォルクスワーゲン・タイプ1,通称「ビートル」によって抜き去られる。「ビートル」は,2003年まで半世紀以上も生産が続き,2152万台という大記録を打ち立てた。

 第二次世界大戦での敗戦後も,フォルクスワーゲン(VW)は西側諸国の庇護の下で再建され,「ビートル」を主力とした高性能と汎用性を併せ持つ自動車を世界中で販売して成長していった。欧州の自動車メーカーを次々に傘下に置き,いまや世界最大の自動車メーカーとなったVWは,ドイツのみならず,EU経済の屋台骨を支える巨大企業となった。

 そのVWに激震が走ったのが,今回の排ガス規制不正問題。まだ,事件の全容が明らかになったわけではないが,これまでの報道によれば,ディーゼル車排ガス審査の時にだけ有害物質の排出を低く抑えるソフトウエアをVWと傘下のアウディのターボディーゼルエンジンに搭載して,規制を潜り抜けていたということで,該当する車種は2009年から15年までに発売された1100万台に上るとされている。

 VWは,これらの対象車両のリコール費用として65億ユーロ(約8664億円)を引き当てた。また,今回の違反を発表した米環境保護局による制裁金は最高180億ドル(約2兆円)にのぼるほか,世界各国の制裁金や消費者による集団訴訟なども加わり,損害額は10兆円規模に達する可能性もあるとのことだ。VWの5~6年分の営業利益が吹き飛んでしまう額だ。

 つくづく馬鹿なことをやらかしたものだなぁ…と思う。日本でも,マツダの「クリーンディーゼル」をはじめとして,環境対応ディーゼルエンジンの開発・製造が加速しているが,今回のVWの事件で,とばっちりを受けることは避けられない。『そら見ろ!やっぱりディーゼル車は公害を撒き散らしているんだ!』と,かつての都知事が訴えたような“ディーゼル悪玉論”が盛んになると,「環境」というワードに敏感な子育て世代などからはそっぽを向かれてしまうかもしれない。

 そうなると,世界の軽油の需要予測にも大きな影響が及ぶことだろう。ガソリンが売れなくなる分を,比較的利幅の大きい軽油の増販でカバーできないかな~とソロバンをはじいていた,日本のGS経営者たちの目論みも潰えてしまうかもしれない。

 いずれにせよ,今回のVW問題の震動は,時を経て,私たちの経済活動にも津波となって押し寄せて来るに違いない。VWが直面している最大の問題は,実は減速傾向にある中国市場での不振だといわれている。そこに不正の発覚が追い討ちとなり,EUの金融センターの役割を果たしてきたドイツ経済を脅かしつつある。ギリシャの債務問題もドイツ頼み。中東から押し寄せる難民問題もやはりドイツ頼み。中国とEUで同時株安を引き起こす危険性が高まっている。あるアナリストによれば「いつ世界恐慌が勃発しても不思議ではない」状態の中で私たちは生活しているのだ。果たして,明日には世界はどうなっていることやら…。

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