セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.870『節約ガソリンスタンド』

GS業界・セルフシステム

2021-11-08

 『韓国政府は2日に物価関係の会議を開き,ガソリンや軽油に課す「油類税」を20㌫一時的に引き下げることに絡み,石油元売り会社直営のガソリンスタンドや一般より安価な「節約ガソリンスタンド」が12日から来年4月末までの約6か月間,油類税引き下げ分を販売価格に反映するよう誘導していくことを取り決めた。この措置が消費者価格に完全に反映された場合,ガソリンは1リットル当たり164ウォン(約16円),軽油は同116ウォン,それぞれ値下がりすることになる。政府はこのほかの自営ガソリンスタンドにも自発的な値下げを要請する方針だ』─11月2日付「聯合ニュース」。

 4日に「OPECプラス」が12月の追加増産を見送ったことで,さらなる原油価格の高騰が予想される。韓国では,来年の3月の大統領選を見据え,劣勢に立たされているといわれる政権与党が,支持率アップを目論んで打ち出した政策だと見られている。いずこの国も,国民の不満を抑えるには,とりあえず減税するか,補助金をばら撒くのが常套手段のようで,日本でも過半数を占めた自民党政権が,パートナーの公明党にせかされる形で,18歳以下の子どもに一律10万円を現金給付するとのこと。「未来応援給付」というのだそうだ。まあ,若いみなさん,せいぜい有効にお使いくださいね。

 ところで,冒頭の記事に出てきた「節約ガソリンスタンド」とは,2011年, 李 明博(イ・ミョンバク)政権の下で国内のガソリン価格を引き下げるために,韓国石油公社が元売り会社から大量に安く購入したガソリンを一般より安価で供給するGSのことである。2011年といえば,3月に原油価格が100㌦を突破し,日本でもガソリン価格がいまと同じく160円台に乗った。当時は民主党政権で,3か月160円台が続けば暫定税率分25.1円を解除することになっていたのだが“引き金”に指をかけた途端,東日本大震災が発生,取りやめとなった。

 韓国ではガソリンが1㍑2000ウォン(当時レートで約144円)を超え,それまでの倍近い価格となった。加えて,当時は韓国国内の製油市場は大手4社による寡占状態だったため,消費者の不満が高まり,政府主導で「公営安売りGSチェーン」が誕生したというわけ。「一般GSより1㍑100ウォン安く販売する」ことを目指した節約GSは政府から税制面で優遇され,一般のGSが節約GSに衣替えした際は,3000万ウォンの支援金も支給されるとあって,2021年6月現在 1235店舗,韓国内GSの10㌫を占めるまでになった。

 節約GSの出現によって韓国のガソリン価格は安くなった半面,GS業界の過当競争を誘発させ,この10年間で1700ヶ所余りが潰れたという。節約GSも,石油公社から安い玉の供給を受ける反面,安売りをいわば義務付けられているため,政府補助がない限り赤字という厳しい経営状況だという。また,価格競争の激化で,実際には価格差は20~30ウォンほどしかないうえ,この10年のあいだに, 200件を超える節約GSが粗悪ガソリンなどの販売で摘発されている。昨年だけで,韓国石油公社は節約GSのために与信額規模だけでも4千543億ウォン(約436億円)の支援を行なったが,世界的なカーボンニュートラルの潮流に逆行する政策でもあり,もはや政府はGS経営に加担すべきではないと国会で指弾されている。

 日本でも,過疎地において,ライフラインの維持のために自治体がGSの経営に乗り出すというケースはあるが,ガソリンを安く売るためにGSを公営化するというのはユニークと言えばユニーク。それまで,財閥とメジャーのカルテルによって支配されていた韓国のガソリン市場の岩盤に穴を開けたという点においては一定の成果があったかもしれないが,洋の東西を問わず,お上が税金を使ってやる商売は大抵うまく行かなくなるものだ。

 日本では,いまのところ石油価格を抑制するために政府が介入する動きはない。というよりも,むしろ消極的ともいえる状態だ。「未来応援給付」のための財源が約2兆円といわれているが,「トリガー条項」を発動しても,6ヶ月で8千億円前後の税収減で済む。ガソリン・軽油が安くなれば,運送コストが軽減されたり,観光需要が喚起されるなどの経済効果が期待され,消費を0.2㌫程度押し上げるとの試算もあるのだが…。

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