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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.886『ウラジミール!』

社会・国際

2022-02-28

 先週のコラムで「来週のいまごろは戦争が勃発しているかもしれない」と書いたが,24日(木)にロシアがウクライナに攻め込み,瞬く間に首都キエフを制圧しようとしている。米国バイデン大統領は予めウクライナに派兵はせず,経済制裁によって応酬すると宣言していたし,NATOも非加盟国のウクライナを防衛する義理はない。孤独な戦いを強いられたウクライナ国民の恐怖と絶望は察するに余りある。

 ロシアからすれば,1989年にベルリンの壁が崩壊し冷戦が終結した際,ドイツ再統一についてソ連の同意を得るため,「NATOの今の軍事的・法的範囲を東方に1インチたりとも広げない」と約束したにもかかわらず,その後次々と東欧諸国を“マーク替え”させてきた米国や西欧諸国にこそ非があるということになる。ただ,その約束は条文化されてはおらず,“紳士協定”のようなものだったため,ロシアの主張は迫力を欠くものとなり,以後30年間ほぞを噛み続けてきた。このまま隣国ウクライナまでがNATO入りすることを許せば,のど元にドスを突きつけられるに等しい。プーチンは遂に積年の怒りを爆発させたといえる。

 そう考えると,2003年に大量破壊兵器を保有していると言いがかりをつけてイラクに侵攻した米国に比べれば,今回のロシアの行動の方がよほど理屈が通っているようにも思える。要は,どんな戦争にも「正義」なんてありはしない。破壊と殺戮があるだけだ。それでもなお,諸国家が「力による現状変更」を選択肢として放棄しないのは,歴史観や宗教観が根強くはびこっているからなのだろう。

 プーチンにとって,ウクライナがNATOに加盟することと共に看過できないもうひとつの問題があるという。それは2018年にウクライナ正教会がロシア正教会から独立したことだ。これに反発したロシア正教会は,独立を承認した正教会グループの総本山であるコンスタンティノープル総主教庁と断絶。政教分離が建前のロシア政府も強く反発し,ラブロフ露外相は「米国が後押しした挑発だ」とまで語った。ロシア正教会はプーチン大統領の統治を「神の奇跡」と賞賛し,「政権の一機関」といわれるほどプーチンに寄り添う蜜月関係を築いている。プーチンとしては,ウクライナ正教会をロシア正教会に帰属させ,正教会世界においてロシア正教会を盟主に引き上げることで,自らの政権基盤を揺るぎないものとしたい。両者の思惑が一致したことが,ロシアを「聖地」ウクライナ奪還へと衝き動かしたとも言える。

 いまのところ押されっぱなしの米国とNATO諸国だが,このまま黙っているはずもない。経済制裁における「核兵器」と称されているのが,国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済網からロシアを排除することだという。つまり,ロシアとのお金のやり取りをできなくすることで,「兵糧攻め」を仕掛けるというもの。前例として2012年,核開発計画を巡ってSWIFTがイランの銀行を排除した結果,イランは石油輸出収入の約半分,貿易の3割を失い,交渉のテーブルに着かざるを得なくなって,2015年の6ヶ国との核合意に至ったとされている。

 とはいえ,SWIFTからロシアを排除するなら,ロシアからモノを買うこともできなくなる。EU諸国は天然ガスの約4割をロシアから賄っている。ドイツやイタリヤは半分,チェコやハンガリーはほぼ全量とのこと。そのため,EUの足並みが揃わず,いまのところ発動に至っていない。米国が不足分の供給を担うとすれば,シェールガスをガンガン増産することになるわけで,脱炭素を目指すバイデン政権にとっては,180度の政策転換となってしまう。それに,当然ロシアも厳しい経済制裁は想定していて,EUや米国という大口顧客を失う事は折り込み済みだっただろう。新たなスポンサー,中国の存在がプーチンを強気にさせていることは想像に難くない。

 キエフから約8000㌔離れたセルフスタンド日進東では,侵攻が始まった日から,ガソリンや灯油の販売量が微増に転じている。遠い東欧の事変とはいえ,原油価格が上がり,株価が下がるなど,私たちの暮らしにも悪影響が及ぶだろうとの不安が,満タン給油などを促しているのかもしれない。何はともあれ,一日も早く,一時間でも早く戦闘が収束することを願うばかりだ。プーチンを諌めることができる“お友だち”はいないだろうか。そういえば,極東某国の首相がかつてこんなことを言ってたっけ。

『ウラジーミル!君と僕は,同じ未来を見ている。行きましょう…ゴールまで。ウラジーミル,2人の力で,駆けて,駆けて,駆け抜けようではありませんか!』─。(2019年9月 ウラジオストクにおける日露首脳会談及び東方経済フォーラムにおける安倍首相のスピーチ)

 

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