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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.89『仰木マジック』

エンタメ・スポーツ

2005-12-19

 前回、「三原魔術」について書いたら、数日後に、その三原の直弟子である仰木彬・前オリックス監督の訃報が届いた。三原ライオンズの名二塁手として活躍した後、近鉄の監督に就任した三原に請われてコーチとなり、88年には監督に。その年、プロ野球ファンならだれもが知っている「10・19」で一躍名を馳せ、翌年には近鉄をリーグ優勝へ導いた。94年からはオリックスの指揮を執り、翌年にはリーグ優勝。そのシーズン中オリックスは、「がんばろうKOBE」のワッペンを付けて戦い、阪神大震災で壊滅的な打撃を受けた神戸市民を勇気付けた。翌年には長嶋・巨人を破って悲願の日本一を達成。「三原魔術」の継承者として変幻自在の采配を駆使し、「西武一強時代」のパ・リーグで三度の優勝を果たした手腕は、「仰木マジック」と讃えられた。

 しかし、仰木監督といえばやはり、二人の偉大なメジャーリーガーを世に送り出した名伯楽ということに尽きるのではないだろうか。もし仰木と出会わなければ、野茂英雄はあのトルネード投法で思う存分に投げ続けられただろうか。もし鈴木一朗という名の若者が仰木に見出されなければ、そして「イチロー」と名づけられなければ、今日の大活躍があっただろうか─。

 よく、“人材”を“人財”に変えるといった類いの話を聞く。人材育成、人材活用は企業経営者にとって永遠のテーマと言える。ガソリンスタンド経営においても同様である。ところが、セルフ時代の到来と共に、その必要性が徐々に薄れてきたように思える。セルフスタンドでは、オペレーションが単純化・省力化され、販売成績がもはや個人の技量によって左右される事がなくなってきたためだ。確かにそれは事実であり、万年、人材どころか人手すら確保がままならないスタンド業界にとって、セルフは画期的な変革をもたらしたと言える。

 しかし、私はセルフ化こそが真の人材育成をもたらすと考えている。かつては、給油だ、窓拭きだ、誘導だ、その合間を縫って、掃除だ、配達だ、集金だと、スタンドのマネージャーは息つく間もなく動き回っていた。その上、油外を上げろと言われても、そう簡単にできるものではない。雑務を下っ端に任せようとしてアルバイトを雇えば、「人時生産性を下げるな」と言われ、結局は、マネージャーが「キャプテンでエースで4番」の上に、スコアラーや玉拾いの仕事までこなさなければならないという有様だった。

 しかし、セルフ化によって、それまで“仕事”と称されてきた雑務から解放され、スタンドのスタッフ、とりわけ、マネージャーの力量が本当に問われることになった。儲からない仕事を、さも忙しそうにやっていたマネージャーは、もはや居場所がなくなってしまったのである。収益を上げるためには、気合いと根性ではなく、知恵を働かせなければならなくなったのだ。

 例えば、油外販売において、あるマネージャーは、告知チラシの企画・製作力に秀でているかもしれず、店頭ディスプレイを得意とするマネージャーがいるかもしれない。対面セールスはイマイチでも、ポスターを書かせたら一級品のスタッフがいたらどうだろうか。そうした“人材”を活用して、従来型の声かけセールスとは異なる方法で油外収益をあげることはできないだろうか。

 あるいは、あるマネージャーが、油外収益をあげることは不得手でも、電気代や水道代を節約したり、壊れた機器や備品を修理する事には才能を発揮するのであれば、不得手なことを叱るより、得意なことをもっと伸ばすよう仕向けるべきではないだろうか。油外収益を十万円上げるのと、経費を二十万円下げるのとでは、どちらが会社に貢献しているといえるだろうか。

 「プロでは通用しない」と言われたトルネード投法や振り子打法を、矯正するどころか、どんどん伸ばして、野茂やイチローを世に送り出した仰木監督の人材育成術は、マネージャーやスタッフの個性や特技を生かしたセルフスタンド経営のお手本と言える。

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