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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.922『時代に負ける』

政治・経済

2022-11-07

 福岡の地方紙「西日本新聞」に次のような見出しの記事が。『「ツタヤに勝って,時代に負けた…」 姿消すレンタルビデオ店 老舗も閉店』(11月2日付)─。記事によれば,福岡市で地元店として34年間営業してきた「ウッドランド」というレンタルビデオ店が10月いっぱいで閉店したとのこと。かつて真横に大手のTUTAYAがオープンしたこともあったそうだが,価格を下げて対抗するなどしてしぶとく生き残ってきた。しかし,音楽はCDからストリーミングに,映画などはオンデマンドなどへとメディアが遷移してゆく時代の流れにはあらがえず,建物の老朽化もあって閉店を決めたのだという。

 1984年に始まったレンタルビデオ店は90年に1万3529店でピークとなり,その後 競争の激化で減少に転じ,2022年6月現在,2373店まで減っている。そのうちの8割は大手チェーン加盟店だというから,「ウッドランド」のような独立系店舗は全国に数えるほどしかない。2000年頃から,それまでVHS方式のビデオテープだったものがDVDに入れ替わり始めたが,この時点で資金力のない中小店舗は相当数廃業に追い込まれ,ピーク時の半分以下の6千か所まで淘汰されたという。ちなみに,私が初めて借りたレンタルDVDは,1980年の英国映画『エレファント・マン』だった。

 DVDの登場によって映画を宅配できるようになり,いまでは前述のとおりネット配信で観るのが主流になりつつある。最近は,劇場公開せず,DVDリリースもされずにネット配信でのみ視聴できる作品も増えている。しかも,それらはVシネマのような低劣なものではなく,一流の監督や俳優による質の高い作品が数多くリリースされている。それでも欧米に比べて日本のレンタルビデオ店の減少度合いはゆっくりなんだとか。

 その理由の一つはパソコン普及率が低いことで,米国に対し,日本は67㌫くらいだそうだ。しかも,これは世帯保有率で,実際には米国ではテレビサイズのモニターのデスクトップPCを一人一台所有しているのに対して,日本ではノートPCかもっと小さいモバイル型のため,映画など長時間の動画鑑賞には適していない。中には『タイタニック』をスマホで観る人もいるかもしれないが,そうすると消費電力がハンパない。多くの日本の家庭では,DVDを借りてテレビで観るのが手っ取り早い。

 もう一つの理由として,動画配信各社の“縄張り”があるため,好きなコンテンツを見るために登録しなければならない動画配信サービスが増えていることに不満を感じる人が少なくないこと。それならばとスポット視聴しようとすると,レンタルDVDの2倍ぐらいの価格となってしまう。例えば,今年大ヒットした『トップガン:マーベリック』で400~500円。DVDなら300円ぐらいで観れる。こうした事情ゆえに,日本ではまだレンタルDVDに一定の需要があるうえ,実店舗もシニアを中心に根強いファンがおり“絶滅”してしまうことはないと見られている。

 さらに,2020年にはTUTAYAの旗艦店である渋谷店が,なんとVHSビデオを約7千本も取り揃えるコーナーを新設,ビデオデッキの貸し出しも行っているとのこと。コンセプトは“映画の森”。意外なことに,シニアだけでなく,20代の若い客層からも支持されているそうで,“DVDで見られず長年探していた作品についにVHSで出会えた”という声も多いという。これぞ逆転の発想。映画好きなら何時間でも過ごせそうな空間だ。

 日本のレンタルビデオ業界の実情について書いてきたが,GS業界も大体 似たような状況にあると思う。レンタルビデオ業界同様,価格競争を延々と続けてきて衰退しつつあったところへ,DVD登場とほぼ時を同じくしてセルフが登場,一段と淘汰が進んだ。そしていまやEVという技術革新の波が押し寄せてきた。いまのところ,その波の速さや強さはまだ緩やかに感じられるが,コロナ禍を契機に動画配信サービスが一気に拡大したように,今後,宇露戦争によるエネルギー危機を背景に,爆発的に普及が進むかもしれない。そうなったら,GS業界,とりわけ中小業者の絶滅は必至と見られている。冒頭の見出し調に言えば,「コストコに勝って,時代に負けた…」というGSがこれから続出するかもしれない。

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