セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.935『エッグフレーション』

政治・経済

2023-02-06

 今月値上げされる食品や飲料は去年10月に次ぐ多さとなり,「値上げラッシュ」となっている。昨年から原材料価格は高止まり状態となっており,各社がコスト上昇分を転嫁しきれていない。それに加えて人件費や物流コストなども上がっており,価格転嫁せざるをえないというのが実情だ。ではなぜ2月に値上げが集中するかというと,12月から1月はかき入れ時で消費者に買ってもらいたいという思いがあり見送られ,4月は新生活が始まるときに一気に値上げすると買い控えにつながる可能性があるため,その狭間の2月に値上げしておきたいという思惑があるとのこと。

 例えば,長らく“物価の優等生”と呼ばれた鶏卵だが,世界的パンデミックとウクライナ戦争の影響で飼料価格が高騰したところに,鳥インフルエンザによる鶏の殺処分が重なり,東京におけるMサイズの卸値は1㌔当たり305円と,1年前よりも130円近く上がっており,1993年に統計を取り始めて以来最高水準にあるとのこと。都内のスーパーでは,少し前までは100円台で買えていた鶏卵Mサイズの1パックが200円を軽く超える価格で売られている。米国でも鶏卵は急騰しており“エッグフレーション”なる単語が生まれたほどで,ガソリンと共に物価高の象徴的存在となっている。

 日本は世界第2位の卵消費大国。国民一人当たりの消費量は年間約330個。その背景には,卵を生で食べるという日本独特の食文化がある。炊き立てご飯に生卵を乗せ,醤油を垂らしてかき混ぜれば,日本が誇るファーストフード「TKG」の完成。味噌汁と漬物があれば完璧だ。生卵や刺身を食べる食習慣があるということは,日本がいかに食品衛生レベルが高い国かということの証左でもあるという。冷蔵庫に卵置き場があるのも日本だけだとか。

 それはともかく,日本の食卓に卵は欠かせない。安価で良質のタンパク源である卵が値上がすることで消費量が減ると,国民の健康にも少なからず影響すると危惧されている。実は,卵は国内自給率が97㌫という,供給面でも“優等生”なのだが,パンデミック前まではしばしば過剰生産によって値崩れを起こしたため,生産者の赤字補填のために国から補助金が投入されてきた。2019年度も総額約49億円の予算がこれに充てられている。2020年には,この補助金事業に関連して,大手鶏卵業者が農水大臣に賄賂を渡した事件もあった。ところが,いまや一転して類例の無い値上がり局面を迎えているわけで,この状態がまだ当分続くようなら,今度はガソリン同様,「激変緩和措置」の補助金を出すのだろうか。

 GS業界では,卵はティッシュボックスと並んで集客イベントの“テッパン景品”だ。むかしは『ガソリン1㍑につき卵1個』という,いささか常軌を逸したサービスが盛んに行われていた。石油元売が販売量に応じて事後調整金をじゃぶじゃぶ出していたバブリーな時代で,とにかく量を捌くことが最重要,儲けは後から付いて来る,と。さすがに最近はこの手の派手なイベントはあまり見かけなくなったが,いまこそ出血覚悟でやれば長蛇の列ができること間違い無しだろう。販促コストを抑えるために,GSの敷地で鶏を飼ったらいいかも。(笑)

 東海地方の喫茶店では,「モーニング」という伝統的なサービスがあり,午前の時間帯にコーヒーを注文すると,ゆで卵やトーストが付いてくる。サラダやフルーツまで出す店もある。当然,今回の値上げでこれらのサービスも見直さざるを得ないだろう。“卵が先か,鶏が先か”と問われれば,当然 鶏が先で,鶏の食べる穀類,産んだ卵を梱包する資材,それを運搬する人手と燃料が必要となる。わたしたちが手にする卵にどれだけのコストが掛かっているかを考えれば,いつまでも“優等生”ではいられないし,然るべき対価を払わざるを得ない。

 戦争,疫病,災害が蔓延するいまの世で,値上がりしつつも手に入るだけましなのかもしれない。世界人口は80億を突破し,食料,飼料,燃料,材料,原料…暮らしを支えるあらゆるものをめぐる世界的な争奪戦が今後ますます激化することは明らかだ。“最後にオムライスを食ったのはいつだっけ”なんて時代が来るかもしれない。卵の高騰は,単に卵そのものの値上がりだけではなく,いよいよ食の調達環境が変わったのだということを私たちに知らしめる警報なのかもしれない。

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