セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.940『EV,シフトダウン』

社会・国際

2023-03-13

 2021年7月にEU(欧州連合)の政府機関である欧州委員会が,2035年以降の新車登録をゼロエミッション車,つまり走行中に温実効果ガスを排出しない車両に限定するという方針を示した。その後の協議を経て,2023年2月に立法機関である欧州議会で,いわゆる「EV化法案」として採択された。あとは,今月7日に予定されていた,各国閣僚級代表による理事会での承認を得るばかりだったのだが,土壇場で延期となった。理由は,ドイツの運輸相がゼロエミッション車に,EV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)と共に,「e-fuel」のみで走行する内燃機関車も含めないない限り,法案を支持しないと言い出したから。

 e-fuelとは再エネ由来の水素を用いた合成燃料で,燃焼時にはCO2を排出するが,生産過程ではCO2を利用するため,いわば“差し引きゼロ”という代物。詭弁を弄するとはこのことだろう。おまけにe-fuelは製造効率が悪いため,生産コストが高くつく。にもかかわらず,ドイツがe-fuel車をゴリ推しするのは,独自動車メーカーが既存のガソリン車やディーゼル車の生産ラインを維持したいとの思惑があるからだという。内燃機関を造るための高度な金型技術と成形技術を縮小・衰退させてしまうことは経済安全保障上も得策でない,と─。

 EUの理事会で法案承認に必要な数は「15か国以上,EU人口の65㌫以上」とのことで,ドイツだけの反対なら法案は承認される運びだが,イタリヤも,EVへの急速なシフトが雇用に悪影響を与えるとして,ドイツに同調している。これにポーランドも加わるとのことで,三国合わせるとEU人口の4割近くを占め,法案は否決となる。

 そもそも欧州でEV化の声が大きくなったのは,2015年の独・フォルクスワーゲンの排ガス環境排出基準の不正偽装が発覚してからだと言われている。EUの排ガス規制基準は欧米メーカーの技術ではもはや達成できる見込みがなく,日本車の独壇場になってしまうとの危機感から,ドイツが自国の自動車産業保護のために,ゼロエミッション推進の旗振り役となったというわけ。

 そのドイツがここにきて法案に注文をつけるのは,時が経つにつれ,やはりよほどの革新的技術が生まれない限り,欧州全域をオールEVにしようなんてとても無理だということが分かってきたからじゃないだろうか。しかも,ウクライナ戦争という想定外の事態が生じ,電気代は高止まりになるわ,電池材料も供給が不安定になるわで,このままEVに突っ走っていいのか?と心配になってきたのだろう。

 こうなってくると,EV化の潮流に乗り遅れたと揶揄されてきた日本の自動車メーカー,とりわけトヨタの,EVを強化しつつもエンジンを搭載したHVやPHVによる脱炭素の道も並行して追求してきたことが“正解”だったのかもしれない。トヨタ自動車のCSO(最高科学責任者)ギル・プラット氏によれば「100台の内燃機関車のうち1台をEVに置き換えるより,同じ電池容量で作れる90台のHVに置き換えた方が30倍のCOを削減できる」とのことだから,やはりEV一択ではなく“二刀流”のほうが現実的なのではないか。

 “二刀流”というワードが出てきたところで,やはり大谷翔平について書かずにはいられない。連日WBCで,素晴らしいパフォーマンスでJAPANチームを引っ張っている。第1戦の中国戦で完璧な投球と2打点を挙げる活躍で世界でただ一人の二刀流プレーヤーとしての存在感を示し,その後の3試合も3番打者としてチャンスで目の覚めるような打球を飛ばし,東京ドームは興奮のるつぼと化している。

 それにしても,2012年にメジャー行きを公表していた大谷を強引に単独指名し,「二刀流育成プラン」を提示して今日の彼を作り上げメジャーに送り出した,栗山監督とファイターズのスタッフには改めて敬服する。私の記憶では,あの時,「本人がやりたいと言っているのに,その芽を摘む必要なんかない。観ている我々も楽しいじゃない」と,二刀流を支持したのは落合博満氏だけで,王貞治氏は「どちらかといえば打者」,長嶋茂雄氏も「やっぱりピッチャーかな」と述べていたという。野村克也氏に至っては「野球をナメてる」と怒っていた。

 私たちの周りでも「これからはEVの時代」とか「キャッシュレスが常識」などと,まことしやかに喧伝されているが,実際は,そうなることで利得を得る“何者かが作り出している空気”に過ぎない。いま“常識”と思われていることが,将来も“常識”であるとは限らないのだ。

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