セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.959『猛暑とEV』

社会・国際

2023-07-24

 山梨県の「道の駅」のEV充電器に,三連休最終日の17日,次のような張り紙が。「現在,機械内高温異常のため充電不可です。ご不便をお掛け致します。時間が経つと復旧しますが,本日は気温が高くどれくらいとは言えません。申し訳ないです」─。関係者の話によると,その日の気温は33度くらいで,昼ごろにエラー表示が出て使えなくなったとのこと。充電器の内部温度は40度になっていたという。15時には復旧したそうだが,2008年に導入した機械で,老朽化ゆえとも考えられるが,メーカーが倒産してしまったため,メンテナンスもできないという。

 こうしたトラブルは,日本以上の熱波に見舞われている欧州諸国ではすでに顕在化しているそうで,充電ステーションにキャノピーを設置することや,地下駐車場に充電器を設置することを推奨しているとのこと。そもそも,猛暑によって電気消費量が急増する夏場の充電は,EV化を推進する国々にとってジレンマとなっている。

 例えば,米国カリフォルニア州では,昨年9月に,「2035年までに州内でのガソリン車の新車販売を禁止する」という野心的な計画を承認してからわずか1週間後,EV所有者に対し,充電時間を制限するよう要請した。州の多くの地域で摂氏38度以上に上昇するとの予想を受けての節電対策の一環だったが,早くも州のEV計画の実効性に疑問を抱かせることとなってしまった。

 中国でも,昨年夏,記録的な熱波により,四川省の通常電力の80㌫を賄う水力発電所の半分以上が蒸発したため,四川省全域のEVステーションの大半を強制的に閉鎖させた。また,中国最大の国営電力会社「国家電網」は,合計80万台のEVを抱える3つの省で,ドライバーが夜間に充電する場合に50㌫オフのクーポンを配布したり,日中は 35万基 の充電器の出力を低下させるなどして電力消費の抑制を図ったため,深夜のEVステーションに充電待ちの車の長い列ができた。

 実に悩ましい話である。これ以上,地球温暖化を進めないためにはゼロ・エミッションの推進は待ったなしだが,歩みのノロい人類をあざ笑うかのように,年ごとに威力を増している熱波がこれを阻んでいる。EV化を進めれば,充電ステーションの増加は必須だが,猛暑や酷寒の時期に24時間いつでも充電できるような供給体制を整備できるかどうか。目下,EVステーションのキャノピーにソーラーパネルを貼り付け,電力会社に頼らずに供給できる仕組みを開発中とのことだが,立地条件やコスト面などクリアしなければならない問題があるとのことだ。

 猛暑はEVに搭載されているリチウムイオンバッテリーそのものにもダメージを与える。バッテリーは使っているときに劣化する,と思われがちだが,むしろ駐車時こそ気を付ける必要がある。システム起動時と違ってファンなどによる冷却が行われないので,炎天下に駐車している時が最もバッテリーに負荷が加わる。熱がこもりやすい真夏の閉め切ったガレージは一番好ましくない状況で,満充電状態にせず,ガレージの換気をしっかり行うなどしてダメージを抑えることが勧められている。

 こうして書くと,EVはとてもじゃないが,ガソリン車やディーゼル車に取って代わることはできないように見えるが,今後,急速な技術革新が進むと思われる。電池メーカー各社は,EVの航続距離を伸ばすことよりも,電池を小型化し,短時間で充電できることに注力しているとのこと。昨年,メルセデスベンツが出資するイスラエルの電池メーカーは,新素材を使って10分で容量80㌫まで充電する電池の開発に成功しており,さらに“時短”が進むと期待されている。

 EV充電器の小型化も進んでいる。EV充電器が大きく重くなってしまう最大の要因は変圧器の存在なのだが,日立製作所は従来の1000倍の駆動周波数を実現したという。例えると,大きなバケツを使って一回で汲み出すのと同じ量の水を,小さなバケツで1000倍速く汲み出すようなものなんだとか。これにより,変圧器の体積を従来比8割以上も減らし,重量も7割削減できるとのことで,狭いスペースにもEV充電器を置けるようになるという。

 これからもEV関連のテクノロジーは,日進月歩で変わってゆくことだろう。問題は,地球環境がそれまで持ちこたえてくれるかどうかだ。残されている時間はそれほど多くはないと思う。

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