セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.960『冒涜』

社会・国際

2023-07-31

 ビッグモーター,大騒ぎになっているが,いまに始まったことではない。これまで,不正整備で幾つもの店舗が行政処分を受けてきたし,“自然なパンク”に見せかけるための技術指導をする動画が拡散するなど,元社員からの告発も相次いでいた。綱紀粛正を図る機会はあったはずだが,なぜか積極的な対応を取らないまま,今回の事態を招いてしまった。ワンマン社長のもとに情報が上がっていなかったのか。それとも,不正行為と知りながらも利益追求のために黙認していたのか。

『傲慢な目と高慢な心は,悪人たちを導くランプである』という格言がある。一代で業界トップクラスの中古車販売会社を興し,自分を“神格化”させていたのではないか。社員教育マニュアルには「能力があっても社長の方針に従えない人は辞めてください」と記されているとのこと。成功体験を重ねるうちに傲慢になり,それを諌める者もいなくなるに及んで,暴走が止まらなくなってしまう経営者や為政者は少なくない。

 一年分の報酬を返上するなんて小手先の対応では世間の批難が収まるはずもなく,遂に25日に報道陣の前に現れ辞任を発表した,ビッグモーターの兼重宏行社長。これまで,いろいろな人の謝罪会見を観てきたが,そうした会見でしばしば飛び出す“んっ?”と思える迷言が今回も。『こんなことまでやるのかと愕然とした。本当に衝撃的で,一線を越えている。ゴルフボールを靴下に入れて振り回して水増し請求する。本当に許せません。ゴルフを愛する人への冒涜です』─。

 “ああ,やっちまったな”って感じ。ゴルフ三昧でそういう思考になっちゃたんだろうか。「冒涜」されているのは,ビッグモーターに修理を依頼したお客では? 仮に,ガソリンを撒いた放火犯が,「石油業界の皆さんを“冒涜”してしまった」などと謝罪したら? いずれにしても,会見は火に油を注ぐ結果になってしまったようで,その後も連日,ビッグモーターは糾弾されている。いまはネットで一般人から叩かれ,不審点を突かれて,たちまち逆風が吹く時代だ。そのうえ,社内や取引先から「内部告発」が次々にネットやマスコミに流出する。被害者の怒りや社会の不信感というものをもうちょっと謙虚に受け止めていれば,「ゴルフを愛する人…」なんてピントのずれた発言は出てこなかったと思う。

 どんなに頭脳明晰でも,どんなに優秀なカリスマ経営者であっても,一人の人間である。人間は失敗を犯す生きものだ。傲慢になって目が曇ってしまったり,心が高慢になってしまうと,「どうすれば自分たちの被害を最小限に抑えられるか」とか,「この状況でも,なるべくいい印象を与えておきたい」といった利己的なことを考えてしまう。人間の“弱さ”と言ってもよい。私たちの誰もが陥るかもしれない罠なのだ。

 GS業界にとって今回の事案は,対岸どころか“隣家の火事”といえる。相変わらず,カーケア収益を追求するGSは多い。過重なノルマを達成しようと,お客の無知に付け込んで不安を煽ったり,強引な声かけをするようだと,消費者・従業員から手痛いシッペ返しを被ることになる。いまなら完全にアウトなことも昔は結構やっていて,それがいまでも通用すると思っている「昭和」の経営者が,それをパワハラで従業員に押し付けるなんてことはGS業界ではあり得ないと言い切れるか。

 それにしても,店舗の視認性を確保するために,税金で植えた街路樹にまで除草剤を撒いて枯らしてしまうとは,りっぱな「器物損壊」だ。雑草を除くために撒いたものが,たまたま樹木も枯らしてしまった? そんなことはまずないそうだ。樹木を枯らすためには,木の根元に穴を開けて,除草剤の原液を何度も注入しないといけないとのこと。全国で何ヶ所もの店舗で行われていたというから,組織的に行われていたのだろう。

 とはいえ,これは文字通り“枝葉の問題”であって,これからいよいよ保険金の不正受給の実態が明らかになってゆくだろう。損失を被ったのは直接的には損保会社だが,結局それは保険料の値上がりというかたちで私たちにまわってくる可能性がある。自動車整備業界全体を「冒涜」し,信用を毀損させたビッグモーターの罪は大きい。5月にもこのコラムで書いたことだが,中古車の査定や車検の測定はAIにやってもらいたいという要望はますます高まってゆくだろう。

コラム一覧へ戻る

ページトップへ