セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.962『低価格・高賃金』

政治・経済

2023-08-14

 『中国から日本への団体旅行が約3年半ぶりに解禁された。民間試算では団体旅行の再開で2023年の訪日中国人が198万人分上振れする。新型コロナウイルス禍で落ち込んだインバウンド(訪日外国人)復活の期待は大きい一方,国内は人手不足で受け入れ体制に不安があり,どこまで回復するかは見通せない』─8月10日付「日本経済新聞」。

 コロナ前の2019年時点で,中国人がインバウンドの約3割を占めており,消費額は4.8兆円に及んでいた。観光業界にとっては,最大のお得意様の訪日解禁は「待ってました」といったところだが,ホテル・旅館業の約100社を対象にした帝国データバンクの調査では,人手不足だと答えた企業の割合は昨年後半から一段と上昇し,4月時点で正規・非正規共に75㌫を超えており,深刻化している。

 コロナ禍で減らした従業員を従来と同じ賃金や待遇で呼び戻すのはもはや困難で,フロントスタッフや配膳・清掃の業務が逼迫しており,せっかく需要が回復したとしても「取りこぼしなどで業績回復ペースが伸び悩む可能性がある」(帝国データ)と危惧される。これは,観光業界に限ったことではなく,GS業界も含めあらゆる業界が抱えている問題だ。

 コロナ禍で切り捨ててしまった人たちは一体どこへ行ってしまったのか。少子化による生産年齢の減少,求人と求職のミスマッチ,フリーランス人口の増加など,重層的な要因があることはすでにコロナ前から指摘されていたが,ここへ来てその弊害がより大きくなっている感じだ。しかし,一番の原因は遅々として上がらない労働賃金にあると思う。

 イギリスの経済誌「エコノミスト」が発表している「ビッグマック指数」というものがある。マクドナルドが世界各国で販売するビッグマックの価格を比較して,各国の通貨の総合購買力(貨幣価値)を見るもので,指数が高いほど,国際間の購買力は高いと評価される。日本は2023年度,54か国中41位で,主要先進7カ国の中で突出して低いだけでなく,ここ十数年ずっと低迷し続けている。

 なぜ日本はビッグマックが安く売れるかというと,企業努力の賜物というよりも,パート・アルバイトの賃金の安さに起因するほうが大きいだろう。労働者の賃金が安いから安売りができ,安売りするからこそ労働者の賃金が上がらないという負のスパイラル。これも,以前から指摘されていたことだが,近年,“低価格・高賃金”というモンスターが日本各地の小売業を席巻している。「コストコ」である。

 数年前に宮城県でコストコが進出したとき,地元ガソリンスタンドの一部が廃業,30㌫以上の販売量がコストコに持っていかれたと報じられたこともある。しかし昨今,価格の安さ以上に地域の脅威となっているのが賃金の高さだ。最低賃金時間額が1000円を超えているのは東京,神奈川,大阪だけで,他の道府県では900円台,800円台というのが現状だが,コストコは1500円以上のスタートとなっており,2024年8月開業予定の沖縄では1600円スタートを予定しているという。周辺業者も,安売りについては不当廉売だとか何とか言って訴えることができても,賃金の上げ過ぎだと抗議するわけにはいかず,グローバルスタンダードによる彼我の差を嘆くよりほかない。しかも,日本におけるコストコの時給は,他にコストコが進出している国と比べて安い部類に入るという。

 日本は1991年は世界で5番目の平均年間賃金を誇っていたが,30年間ほぼ横ばい状態が続いた結果,2021年には34ヵ国中24位まで順位を下げた。その間,安い賃金で“おもてなしサービス”を提供し続けているうちに国内での成長力・購買力がすっかり衰えてしまった。「異次元の金融緩和」により内需拡大を促し,「トリクルダウン」によって生活水準の引き上げをもくろんだものの,賃金が十分に上がらないまま,それを凌駕するインフレを引き起こしてしまった。“安い円”に魅せられて,今後もインバウンドは増加してゆくだろう。せいぜい爆買いしていただければ幸いということなんだろうけれど,自国通貨の価値が下がり,それを呼び水にして外貨を稼ぐというのは,もはや発展途上国のビジネスモデルである。

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