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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.965『老害』

オピニオン

2023-09-04

『米上院共和党トップのマコネル院内総務(81)が30日,記者団らの質問に答えていた際,30秒以上言葉を発せず凍り付いたようになった。マコネル氏は北ケンタッキー商工会議所とのイベント後,記者団からの質問中に突然固まったように宙を見つめ,質問に答えなかった。同氏が公の場で沈黙するのはここひと月あまりで2度目となる』─8月31日付「ロイター」。

たまたまこのときの様子をテレビニュースで見ていたのだが,マコネル氏は“ここは何処 ? わたしは誰?”といった感じで,顔をこわばらせてその場に突っ立っていた。その姿は,帰る家が思い出せない認知症老人そのもののように見えた。2007年から15年間にわたって院内総務を務めるマコネル氏は,押しも押されもせぬ共和党の最高実力者。ところが,最近は言葉がつかえることも多く,健康状態を不安視する声が出ていた矢先のハプニングで,これまで,ことあるごとにバイデン大統領(80)の高齢問題を取り上げてきた共和党も同じ問題を抱えることになってしまった。

 最近,米政治指導者の高齢化を巡る議論が高まっている。来年の大統領選でバイデン氏とトランプ氏(77)が再び対決する可能性が高まっているうえ,両党執行部も高齢政治家一色であるため,有権者の拒否感が強いという。米上院議員100人と下院議員435人の平均年齢はそれぞれ65歳,59歳で,米国人口の年齢中央値39歳よりはるかに高い。一方で,高齢者は健康面に不安があるという画一的な見方を戒める声もある。

 確かに,齢を取ると人間の機能は衰えてくるのは事実だ。日本でもこのあいだ,現内閣で最高齢の79歳の農水大臣が記者団に原発処理水のことを「汚染水」と言い間違えたことが問題になっているが,これも高齢によるものだと叩かれている。農相はその日のうちに謝罪したが,その際ずっと用意された原稿を読みながらだったことを記者から指摘され,「顔を上げて言えばよかったんでしょうけど,私は時々,口が滑ってしまう恐れがあるので…」と釈明したものだから,「口が滑るってのは,思わず本当の事を口にした時に使う言葉では?」と批判され,火に油を注ぐ格好になってしまった。

 人間だれしも言い間違えることはあるわけで,この一事を以って“だから高齢者は…”というのはどうかと思うし,そもそも政治家の失言は,年齢というよりはその人の資質によるものではないかとも思う。まあ,政治家の失言や暴言なんて,しょっちゅうの事だし,時間が経つと忘れ去られてゆくが,時には政権を揺るがす,下手をすると世界を危機に陥れるような失言だってある。

 例えば,冷戦真っただ中の1984年,レーガン米大統領(73)は毎週行っていたラジオ演説のサウンドチェック中,冗談で「アメリカ国民の皆さん,私はきょう,ロシアを永遠に非合法化する法案に署名しました。5分後に爆撃を開始します」としゃべってしまった。このジョークは放送されなかったものの,録音されており,後日公開されてしまった。その結果,ソ連軍は一時,極東に警戒態勢を敷く事態となった。いままた世界は極度の緊張状態の中にある。政治家の軽率な発言が,どんな偶発的な事態を引き起こすとも限らない。怖いな~。

 それはともかく,やはり世の中には「老害」の被害を被っている人たちがいるのは確かだ。典型的な老害は,高齢者が権力の座に居座り続け,組織の新陳代謝を妨げている場合だ。『騏驎も老いぬれば駑馬に劣る』という格言もある。かつて優れた能力を誇った人でも,歳をとると凡人にも敵わなくなってしまうという意味で,引き際をわきまえないイタい老人の姿を如実に言い表している。御本人は,後継者候補がいずれも頼りなく見えて,「まだまだ自分が頑張らねば」と思っているのだろうが,昔の尺度でしかものを判断できない人が権力の座にいる組織は,早晩立ち行かなくなる。

 長年,セルフスタンドのプロデュースに携わってきた経験においても,跡継ぎがセルフ化しようと計画しても,保守的な親父が反対して潰されたケースが幾つもあった。反対する理由に論理的な根拠はほとんどなく,ただただ「セルフ」という未知のものによって,自分の権威や立場が奪われてしまうことへの恐れが,反対へと駆り立てていたのだと思う。結局,そのような店の多くは廃業してしまった。いまだ,セルフは日本のGS総数の半分にも満たない。様々な要因があってのことだが,「老害」もそのひとつに違いないと思っている。

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