セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.966『175円を超えないように…』

GS業界・セルフシステム

2023-09-11

 『ガソリン価格の高騰を受けた政府の補助制度が7日から拡充される。基準価格の168円を超える場合,185円までは超過分の30㌫を補助し,さらに超える分は全額を補助する。全国平均のガソリン価格が180円を超えないようにする。10月5日以降は185円までの補助率を60㌫に引き上げ,175円を超えないようにする。エネ庁によると,支援効果が実際の価格に十分反映されるまでに数週間ほどかかるという。補助は年末まで続ける』─9月6日付「日本経済新聞」。

 一応,年末までということだが,もし,そのあともガソリン価格が175円で収まらない場合はどうするつもりなのだろう。おりしも,ロシアとサウジは先週,減産などの措置を今年末まで延長すると発表,これを受けて北海ブレント原油は10ヶ月ぶりに1バレル91㌦を超えた。ゴールドマン・サックスの予測によると,OPECプラスが今年の減産を来年末まで維持するという強気のシナリオを想定した場合,来年12月にはブレント原油が1バレル107㌦に上昇する公算が大きいという。

 昨年の1月から始まり,延長を重ねてきたガソリン補助金だが,いまや出口を失ってしまった感がある。これまでに6兆2千億円の予算をつぎ込んで,ガソリン高騰を抑えてきたというのに,感謝されるどころか“配るぐらいなら,税金取らないで”と,トリガー条項の凍結解除や二重課税の是正を求める声をかえって増幅させる結果となっている。

 ガソリン高騰と併せて,テレビやネットでしばしば取り上げられているのが“ガソリン節約術”。アクセルやブレーキの踏み方から車間距離のとり方,タイヤの空気圧,そして猛暑の中でのエアコンの温度調節─。涙ぐましい努力をして節約に勤しむ庶民を尻目に,高級車でレジャーを楽しむ富裕層のガソリンも一律に税金で安くする必要があるのか,というジレンマを生じさせているのも事実だ。

 じゃあ,円安をなんとかしてはどうなのか,ということになるが,もしいま短期金利をいきなり米国並みの5㌫程度まで引き上げたら,借金を抱える中小企業の多くが倒産し,住宅ローンを抱えているサラリーマンも,たまったものではない。そうなると,やっぱり特例税率を廃止するのが一番筋が良いと思える。トリガー解除による税収減は1年間で国・地方合計で1兆5700億円になるとのことで,補助金つぎ込むより“割安”なのだが,財務省はいまのところ応じる気配なし。鈴木財務大臣はその理由について,「発動終了時に大幅な価格変動が生じて,発動前の買い控えや,終了前の駆け込み,流通や販売の現場に与える影響が大きい」と説明している。つまり,GS業界が混乱しちゃうからできないと…。

 恐らく本音のところは,いったんトリガー条項を減税すると二度と元に戻せなくなるかもしれないし,国と地方の一般会計に充てられる使い勝手の良い揮発油税を手放したくないのだろう。経産省も,補助金を元売会社に出せば,恩を売る形になり,役所としての権限強化につながる。問題はそんな大盤振る舞いをいつまで続けられるかだ。赤字財政の中で膨大な予算を使い続ければ,結局は国力が低下し,円はさらに弱くなり,輸入原油の円建て価格は上昇,ガソリン価格は上がっていく…そんな負の連鎖につながっていくことにならないか。

 それにしても,岸田首相,どういう見積りで「10月には175円を超えないようにする」なんて言ったのだろう。ともかく,総理が175円という「定価」を決めてくれたのに,すでに,値下げのバイブスが上がって,160円台の看板を出しているGSが全国各地に…。少し前,地方の某テレビ局の電話取材で,業転ガソリンの仕組みについて聞かれたのだが,その際,某県境を越えた途端,ガソリン価格が極端に安くなるのはなぜなのかと問われた。『ああ,あの県はね,業界ではつとに知られた“無法地帯”みたいなところなんです』と私。『え?無法地帯?』『そう,無法地帯。もう採算なんて考えないGS同士の殴り合いです』『へぇ~,なんでそんなことやるんですかね』『さぁ,こっちが聞きたいですよ』─。

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