セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.968『うしろめたい気持ち』

GS業界・セルフシステム

2023-09-25

 『スナク英首相は20日,2030年としてきた英国内のガソリン車とディーゼル車の新車販売の禁止を35年に先送りすると表明した。EVの価格がまだ高いことなどを理由に「より現実的な手法を採用する」と述べた。25年1月までに総選挙を控え,産業界やインフレに苦しむ家計の負担増を避けるのが得策と判断したようだ』─9月21日付「朝日新聞」。

 やっぱり…という感じ。最近鈍化傾向にあるものの,英国は歴史的な高インフレに苛まれている。国民の負担は増しているうえ,インフレ抑制のために中央銀行が利上げしたことも家計の重荷となっている。厳しさを増す暮らしの中で,「グリーン化」のためにさらなる負担を強いられることに多くの有権者が拒否感を抱きはじめていると察知した政権・与党が,グリーン化にブレーキを踏んで有権者の支持を得ようとしての“先送り”宣言と見られている。

 英国だけでなく,欧州では往々にして,まず高い目標をぶち上げて,現実が追い付かないようなら,目標を下方修正していくというアプローチが常套手段のようだ。今年3月,EU域内で2035年以降すべての新車をEVにするとしていた法案が,ドイツの突然の変節で「合成燃料で走る従来型のエンジン車も含める」という内容に書き替えられたのも,その類だろう。今後も,欧州諸国ではEVシフトの目標が,35年から40年へ,あるいはEVに限定せずにHVなど電動車全般を含めると,いう具合に修正されてゆくかもしれない。

 このように,世界のグリーン化の目論見を狂わせているのは,何と言ってもウクライナ戦争だ。燃料のみならず,食料,飼料,材料,原料…とにかくありとあらゆるものが値上がりしている。グリーン化が重要なことは明々白々,人類の未来を考えれば先送りなど許されないことは百も承知だが,“きょうのパン”を得ることに精一杯で“明日のリンゴ”の木を植えている場合じゃない,というのがいまの人類の切実な状況なのだ。

 EV化のスピードが鈍るのを,内心喜んでいる…とは言わないが,少しだけ安堵しつつ商売を続けている我々GS業界人だが,前途は厳しい。帝国データバンクが今月リリースしたレポート「ガソリンスタンド業界の景況感に関する動向調査」によると,景気動向指数(DI)が3カ月連続で悪化しており,『他産業がコロナ禍からの回復傾向を見せるなかで,需給バランスと価格の安定が整わなければ,GS業界の景況感は今後も厳しい状況が継続すると見込まれる』としている。「DI」とは全国企業の景気判断を総合した指標で,50㌫を境にそれより上であれば「良い」,下であれば「悪い」を意味している。

 で,GS業界のDIはどうなっているのかというと,コロナ禍前の2019年は年間を通して40㌫前後で推移していたが,2020年4月に1回目の緊急事態宣言が発出されると,19.2㌫まで急落。その後,30㌫台まで戻ったものの,40㌫台まで回復した全産業のDIとの格差は開いたままの状況が続いているとのこと。まあDIのような複雑な数式で計らずとも,GS業界が大変なことはわかりきったことなのだが,もっと大変な業界もあるんだということを念頭に置いて,あまり絶望的にならないようにしたいとも思う。

 例えば,全国で給食調理業務を請け負ってきた「ホーユー」が,食材費や人件費の高止まりなどが原因で夏休み明けに突然,給食の提供を停止したことを機に,学校給食の採算性の低さがクローズアップされた。コストが上がっても値上げが許されず,作れば作るほど赤字。ガソリン補助金6.2兆円に対して,学校給食の年間総額は0.36兆円。育ち盛りの子どもたちの昼食が「刑務所の食事よりひどい」などと報じられており,居たたまれない気持ちになる。

 東京商工リサーチによると,今年1~8月のラーメン店の倒産(負債1000万円以上)は28件で,前年同期の3.5倍と大幅に増えている。コロナ禍の厳しい状況から脱したのも束の間,原材料や水道光熱費の高騰で経営が行き詰まる店が大半だという。この業種にも「1000円の壁」問題というのがあり,採算を悪化させているのだ。仕入れが上がったら,天井知らずで値上げできるうえに,補助金もらって値下げしているような業界が,経営が大変だなどとぼやいたら,給食のおばちゃんやラーメン店のおやじに“甘ったれるな”と叱責されそうだ。

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