セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.969『原価販売』

GS業界・セルフシステム

2023-10-02

 『仏政府は26日,仏大手小売企業が年末まで,インフレ対策としてガソリンの原価販売を実施すると発表した。仏政府が各企業に要請した。仏政府によると,仏小売り大手カルフールとルクレールの2社は毎日,その他の流通大手は一部週末に,原価でガソリンを販売する。石油精製や輸送などの事業者についても,所管官庁が不当に利幅を拡大していないかを監視するという』─9月27日付「讀賣新聞」。

 カルフールはフランスに本社を置く巨大小売グループで,世界30か国に9千店舗以上のスーパーやハイパーマーケットなどを展開している。ルクレールは仏最大のGSチェーンで,すでに今年3月に,ガソリン高に苦しむフランス人の「購買力を守るため」として,700近い店舗で,一日限定でガソリンの原価販売を実施している。

 現在フランスでは,ガソリン販売価格に1㍑あたり1.99ユーロ(約310円)の上限が設けられている。日本の倍近い。フランスにおける消費者物価は上昇傾向にあり,マクロン政権の無策を非難する声が高まっているという。5年前には,燃料税引き上げに抗議するデモが激化し,暴徒化したデモ隊によりシャンゼリゼ通りでは約180ヶ所で放火が発生した。その経験がトラウマになっているのか,ガソリンに関わる事案は,ひとたび不満の火が付くと大爆発するということで,今回の“原価販売”につながったのかもしれない。

 それにしても原価で売るとは…と絶句したものの,大手では現在でもガソリンのマージンは2~3セント(3.2円から4.7円)程度で,原価といっても,消費者にはそれほど大きな恩恵はもたらさないと見られている。また,大手流通以外の独立系GSはこれに追従することができないため,業界内での格差が拡がるとして,5千8百の小規模GSから成る組合は反対しているとのことだ。そりゃそうでしょ。日本で言えば,コストコやエネオス100㌫子会社が原価販売するようなもので,周辺のGSはひとたまりもない。

 欧州ではEVへの移行が,日本の何倍ものスピードで進んでいるが,それでもガソリンはまだまだ生活必需品だ。ガソリン価格の高止まりは,洋の東西を問わず,時の政権の転覆につながりかねない大事であることは,歴史が証明しており,まさしく「危険物」として為政者は神経を尖らせている。日本も同様で,とりあえず補助金の延長で急場をしのいでいるが,1㌦150円に迫ろうかという円安と1バレル100ドルをうかがう原油相場で出口が見えない。「10月中に175円まで下げる」ことを目指して延長されたガソリン補助金は,すぐに効果が現れ,9月末の時点で,全国平均はすでに176.4円(「gogo.gs」調べ)まで下がっている。とにかく年内にガソリンを下げられるだけ下げさせて,国民の不満が少し和らいだところで解散総選挙になるんじゃないか,などという憶測も飛び交っている。

 もし,日本政府がフランスのようにコストコやイオンのような大手流通に,原価販売を要請したら? これまでなら独禁法違反の不当廉売とされた行為を,お上の許しを得て堂々と,大々的に宣伝してやれるわけで,GSは赤字でも,ガソリンを目玉商品として集客でき,グロスでは十分元が取れるということになるんじゃないか。そんなことは絶対あり得ないと言い切れるか。最近,石油元売も,直営スタンドで「生活支援基地」などと謳っていろいろな業態を併設させ,実証実験に励んでいるが,将来,ガソリンを原価で売ってもやってゆけるようにと考えてのことなのかも…。

 「gogo.gs」によれば,9月30日現在(以下同じく),全国で190か所を超えるGSが150円台で販売している。(会員価格も含む) 最安値は151円。消費税を引くと137.2円。さすがに原価販売とまでは行かないまでも,その価格だと,相当な量を売るか,他の収益がないと赤字になってしまうだろう。“損して得獲れ”とは商売人の金言の一つだが,年々販売量が減り続けるGS業界では,損して売っても,その分まるっと損するだけでリターンは期待できないというのが現実だと思うのだが。ちなみにコストコの最安値は石狩市の157円。でも,前述のとおり,彼らはひとたびその気になれば,日本中のどのGSよりも安く売ることができるだろう。

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