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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.970『失敗の日』

オピニオン

2023-10-09

 10月13日は「失敗の日」。なんじゃそりゃ? 発端は,2010年 フィンランドの大学の学生起業家グループが,「失敗は成功の母」の精神こそ起業家にとって最も大切だということで,失敗を披露して称えあう日を設けようと呼びかけたところ,「ノキア」をはじめとする多くのフィンランドの企業や著名人たちが賛同し,3年目には欧州17か国で「失敗の日」が制定されるまでになった。いまでは「国際失敗デー」として広く知られているという。へぇ~知らなかった…。

 日本ではまだ認知度が低いようだが,この日に“失敗”を披露して賞賛し合うイベントを行う会社や学校があるらしい。そのねらいは,チャレンジ精神の育成だ。失敗しても萎縮せず,むしろバネにして挑戦を続けるよう励ますために,「失敗の日」を活用して,励まし合うというわけだ。

 実際,失敗したことが成功を生み出すことさえある。例えば,米国・ミシガン州の医師の男性は,厳格な菜食主義に基づく病院食の開発に弟と共に励んでいた。1894年のある日,ふたりとも用事で調理場を離れている間に,小麦のお粥が煮詰まった挙句ぱさぱさの塊に。わずかな予算で研究していたふたりは,それを捨てずに,ローラーで延ばして炙ってみたところ,かりかりの小麦の薄片となり,その後,原料をトウモロコシに替えたところ,いまでは160を超える国で100億㌦以上を売り上げる大ヒット商品に。ケロッグ兄弟による「コーンフレーク」はこうして誕生した。

 世界最初の抗生物質「ペニシリン」の発見は,ブドウ球菌の研究中に,菌を培養していたシャーレに青カビが混入したことがきっかけとなったし,「青色発光ダイオード」も実験用の窯が故障するというアクシデントがあったからこそ生まれたわけで,ノーベル賞クラスの大発見も,失敗による産物だったのだ。この類の話は世の中にたくさんあるが,それらは“あの時の失敗や挫折があったからこそ…”という成功者の語るエピソードでもある。現実には,失敗談を笑って振り返れる人は少数派で,大半は失敗の痛手から立ち直れず諦めてしまう。諦めたくなくても,資金が続かなかったり,周囲の人たちに反対されたりしてやむなく,というケースもたくさんあるだろう。「失敗してもくじけるな」というのは,“言うは易し,行うのは難し”なのだ。

 GS業界でも,挑戦と失敗が繰り返されてきた。とりわけ1996年の特石法廃止のあとは,激減したガソリンの儲けをいかにして補うか,あれやこれやと試みてきたものの,全体としてはどれひとつモノにならず,失敗に終わったといえる。この30年近くで,半分のGSが姿を消したことがその証左だ。脱炭素化が加速する世となり,GS業界がかつての隆盛を取り戻すことはもはや不可能。新たなトレンドが生み出される可能性もなさそうだ。最近では,“給油をしないGS”という,よくわからないものまで試行されているが,とにかくこれ以上失敗しないよう地道に,手堅くやってゆくよりほかない。

 「失敗の日」には,失敗した経験を思いに留め,同じ失敗を繰り返さないよう気をつけるという目的もある。GS業界はこれまで過度な価格競争を繰り返してきたが,もういい加減反省して,適正利潤を確保し,業界で働く人たちに相応の報酬を支払ったり,脱炭素社会に備えて資金を留保しておくなどして“賢く”なるべきなんじゃないか。さもないと,何年後かに“失敗を繰り返した挙句滅びていった愚かな業界”などと評されてしまうことになるかも。

 とにかく,人間は失敗する生きものだ。失敗を怖がり過ぎてもいけないし,失敗をいつまでも悔やんでも仕方ない。ただ,取り返しのつかない失敗というものもある。人類の歴史は,まさにその連続ではなかったか。目下フィンランドでは,世界初の核廃棄物の最終処分場「オンカロ」が建設中だ。高レベル放射性廃棄物を10万年(!)にわたって地下430メートルの深さの岩盤に貯蔵する施設で2025年に稼働する予定だとか。管理会社は「この岩盤は20億年近く安定しており,氷河期など地上の環境変化にも影響されない。100万年先も安全だ」と豪語しているそうだが,これまでその類の話がどれだけひっくり返されたことやら。“失敗したらやり直せばいい”とはいかない。

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