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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.971『戦争という疫病』

社会・国際

2023-10-16

『パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織「ハマス」によるイスラエルへの越境攻撃から,14日で1週間になる。ハマスの攻撃とイスラエルの報復空爆による双方の死者は2800人を超えた。イスラエルは近く開始するとみられる地上作戦で,ガザからハマスの完全排除を狙っている』─10月14日付「讀賣新聞」。

 時々刻々と進展する中東情勢。この記事がリリースされるころには,イスラエル軍はすでにガザ地区に地上戦を仕掛け制圧しているかもしれないし,凄惨な市街戦がなおも続いているかもしれない。はたまた,土壇場で停戦合意がなされ,流血がとどめられているかも。ちょっと想像できないが…。

 ガザ地区は365平方㌔㍍に222万人のパレスチナ住民が暮らしている。名古屋市は面積が326平方㌔㍍,人口は232万人で,ロケーションが近似している。ガザ地区は現在,電気や水道,食料や医薬品などの供給が遮断されているうえ,イスラエルは,ガザ地区住民に南部への非難を勧告しているとのことだが“天井のない監獄”とも呼ばれるガザ地区で避難勧告というのは,ちょうど,「いまからこの部屋を火炎放射器で焼き払うから,できるだけ部屋の隅に行きなさい」と言われているようなものだ。

 一方,徹底抗戦を唱えるハマスは住民に現在地にとどまるよう命じている。まさに“前門の狼,後門の虎”。逃げ場のない絶望的な状況の中で,赤子を抱え,幼子の手を引きながら右往左往する人々の姿を見ると,暗澹たる気分になると同時に,「今後の原油価格の推移は…」なんてすまし顔して論じているのが愚かしく思えてくる。

 圧倒的軍事力で国土を防衛してきたイスラエルだが,今回の“奇襲攻撃”で国内は恐怖の坩堝と化している。北部で国境を交えるレバノンの武装勢力「ヒズボラ」からの攻撃も受けているとのことで,二正面戦争となる危機も顕在化している。岐阜県ほどの小国レバノンだが,その後ろ盾となっているのは大国・イラン。ハマスの攻撃への関与も疑われている。そのイランは今年3月に中国の仲介でサウジアラビアと7年ぶりに国交を回復した。アメリカを庇護者とするイスラエルをぐるりと取り囲むイスラム諸国の背後に,中国の影が見え隠れする。

 大国の覇権争いに翻弄され“代理戦争”を繰り返す中東諸国だが,アラブには「敵には一度,友には常に気をつけよ」という格言があるそうだ。古来より世界強国に侵略され,略奪したりされたりしてきた人々が歴史の中で体得した生き残るための知恵だ。日本人の多くは,中東情勢の惨事をテレビで観ながら,「皆が平和を望めばそうなるのに」なんて“正論”が通用すると思っているかもしれないが,パレスチナの人々からすれば,甘っちょろいにもほどがあると言われてしまうかも。

 アラブには「盗むならラクダを,恋に落ちるなら月を」という格言もある。盗むなら高価なものを,結婚するならとびきりの美女を,というわけで,悪行であれ,善行であれ,やるんだったらとことんやれという意味なんだとか。無論,数多ある格言のひとつに過ぎないが,今回のハマスの仮借なき攻撃は,22年前の米国同時多発テロを思い起こさせる。暴力では何も解決しないことは明らかなのに,「どうせやるなら…」とばかりに戦端を開いたハマス。「目には目を」どころか,今度こそハマスの息の根を完全に止めるといきり立つイスラエルだが,外国人を含む150人もの人質を取られており,国際社会は固唾を呑んで見守っている。

 ガザ地区が世界の耳目を集めているあいだに,ウクライナ東部ではロシア軍が局地的反撃を試みているという。英・BBCは「ロシアは西側がウクライナに提供するはずだった軍事援助がイスラエルへ振り向けられることを期待している」と報じていた。さしずめ,列強諸国がポーカーに興じているかのようだ。「戦争は人類を悩ましうる最大の疾病である」と唱えたのは16世紀の神学者 マルティン・ルター。コロナという疫病がどうにか収まってきたと思ったら,もっとひどい疫病が流行りだした。

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