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セルフ雑記帳

和田 信治

vol.972『パレスチナ問題と映画』

エンタメ・スポーツ

2023-10-23

 「油業報知新聞」で健筆を振るう関 匡氏が,連載コラムで現在の中東情勢について言及するにあたり,映画『アラビアのロレンス』を引き合いに出し,第一次世界大戦中に英国が行った“二枚舌外交”が,今日まで続くパレスチナの憎悪を引き起こしたと看破しておられた。『アラビアのロレンス』(1962・英)は,その“二枚舌外交”の一翼を担った,英国軍諜報員のT.E.ロレンス中佐の栄光と挫折を描いた,映画史上屈指のスペクタクルドラマだ。実は私も,この映画のことについて書いてみようかな~と思っていたので,関氏の記事は興味深く読ませてもらった。

 英国の裏切りが,その後100年に及ぶパレスチナの流血の歴史を生み出したわけだが,その間の映画史においては,この地での対立を何とかして断ち切りたいとの願いから,数々の名作が生み出されている。関氏の記事で映画好きの心に火が付いたので(笑),今回はパレスチナ問題を扱った近年の映画を幾つか紹介してみたい。

 1本目は『もうひとりの息子』(‘12・仏)。イスラエルで暮らすユダヤ人の家族の18歳になった息子が,兵役のための身体検査を受けたところ,血の繋がりがないという衝撃的な事実が突きつけられる。実は,本当の息子は出生時に病院で取り違えられ,ヨルダン川西岸に住むパレスチナ人一家に育てられていたのだった。ありがちなストーリーではあるが,二つの家族がユダヤ人とパレスチナ人という敵対し合う民族であることが,このドラマに一触即発の緊張感をもたらし,観るものに否応なく,「民族とは,宗教とは」と考えさせる。

  2本目の『テルアビブ・オン・ファイア』(‘18・イスラエルほか)はコメディ映画。エルサレムに住むパレスチナ人青年は,毎日検問所を通ってバイト先のバレスチナ区域にあるTV制作会社に通っていた。ある日,誤解から尋問を受ける羽目になり,とっさに自分は人気メロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の脚本家だと嘘をついてしまう。ところが,パレスチナの女スパイが活躍するこのドラマ,イスラエル将校の妻が大ファンで,女房に自慢するために,俺のアイディアを脚本に盛り込んでくれ,そうしなければ通行証を取り上げるぞ,と将校に脅されてしまう。主人公はやむなく将校のアイディアを制作会議で提案すると,これがウケてドラマの人気はますますアップ。だが,将校の要求はだんだんエスカレートして…。

 ドタバタ劇によってあぶり出されてくるのは,イスラエルの監視下で身を縮めながら暮らすアラブ人の心情だ。最終回で女スパイが敵のユダヤ軍人と恋に落ち,結婚するようにと提案する主人公に,プロデューサーは不快感をあらわにする。「パレスチナとイスラエルの和解の象徴となるシーンなど欺瞞だ。オスロ合意が破られたことではっきりしているじゃないか!」─。相互理解の難しさを描きつつ,映画は妥協や融和の大切さを笑いに包んで問いかける。

 3本目は,日本では劇場未公開だった『ゼロタウン 始まりの地』(‘12・英)。邦題やDVDジャケを見ると,パレスチナを舞台にした戦争アクションと勘違いされそうだが,原題はヘブライ語で「オリーブの木」の意。1982年のレバノン戦争下のベイルートで,撃墜されたイスラエル軍の戦闘機パイロットが,空爆で父を殺され復讐に燃えるパレスチナ難民の少年と,ひょんなことから国境脱出という目的のために手を組む。敵対する二人だが,次々に立ちはだかる危機を乗り越えるために協力せざるを得ず,やがて跡形もない廃墟となった少年の村にたどり着くのだが…。冒険譚としても見ごたえがある人間ドラマ。「オリーブの木」にこめられた少年の重いが見るものの胸を打つ。傑作です。

 上記の3本はすべて,ユダヤ系かアラブ系の監督による作品。このほかにも,『判決 ふたつの希望』,『シリアの花嫁』なども,見終わったあとインパクトを残す秀作だ。映画作家は,取り上げる問題や状況が過酷であればあるほど,強いインスピレーションを受けるものだ。その意味で,イスラエルと周辺のアラブ諸国の関係,パレスチナ問題は,おのずと傑作や力作を生み出すのだろう。日本映画ではこうした作品は到底作れない。しかし裏返せば,それだけ日本は平和な国だという証拠でもある。

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