セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.976『ビッグモーターを買い取る?』

政治・経済

2023-11-20

 『経営再建を目指すビッグモーター(BM)に対し,伊藤忠商事は子会社 伊藤忠エネクス,企業再生ファンド JWPと組んで支援の検討に乗りだした。保険金請求や車検整備を巡る不正行為で失った信頼の回復は容易ではない。7月に辞任した兼重宏行前社長ら創業家の影響を排除できるかなど,課題は山積している。支援決定までの道筋は見通せない』─11月18日付「時事通信」。

  伊藤忠はグループに輸入車販売の「ヤナセ」や,英国最大手のタイヤ小売りチェーン「クイックフィット」を持ち,伊藤忠エネクスは約100店舗を展開する「日産大阪」を持っている。また,伊藤忠の関連会社,東京センチュリーは「ニッポンレンタカー」を傘下に置いており,グループとして自動車ビジネスを幅広く展開しているため,相乗効果を見込めるとされる。当然,エネクス系列GSとのコラボレーション戦略も視野に入っているに違いない。

 自主再建を断念したBM社は他社資本の受け入れによる再建を目指して,これまでに中古車買取り・販売店「ガリバー」を運営するイドムやオリックスに接触していたが,両社ともすでに支援を断った。イドムは今月1日に,「ガリバー」で保険金の“誤請求”が3件見つかったと発表,東京海上からは不適切請求の疑いが120件あるとして点検調査の依頼を受けたとのこと。BM社を助けている場合じゃなさそうだ。

 オリックスは,BM社の人員・店舗・工場などの資産のみを買い取り,損害賠償の支払いなどの簿外債務の整理は既存のBM社に残したままにする譲渡方式を求めていたが,それが受け入れられなかったため撤退したとのこと。大手損保会社4社は現在,計20万件超を調査対象として過去のBM社からの保険金請求を調査しており,9月末時点で5万3000件の調査件数に対し,1万7000件に不正の疑いがあるという。不正の疑いのある事例が3割超もあったわけで,この調子で行くと,不正件数は6万件を超える計算になる。伊藤忠による査定はこれからだが,将来的にどれだけの規模に膨らむのかわからない簿外債務を抱えたままBM社を丸ごと買収するのは難しいと見られている。

 BM社の不正行為は顧客にも及んでいる。消費者庁は10月,2022年度に同社に関する相談が約1500件も寄せられていたと発表した。BM社が提供する撥水加工「ダイヤモンドコーティング」を,営業担当者がコーティングを望んでいない顧客に対し,これをしないと車を販売できないと伝え,強引に約7万円の代金を取ったものの,コーティングしないまま納車した事例もあったという。そんな酷い話が次々に出てきており,唖然としてしまう。

 コロナ禍における中古車ニーズの高まりを受けて好調だった中古車業界だが,帝国データバンクの調査によれば,BM社の事件が報じられてから中古車業界全体への不信感が高まり,『中古車店の倒産は,2023年1月~9月ですでに前年の年間件数(52件)を上回っており,このままのペースだと過去10年で最多の90件台に到達する可能性がある』とのこと。実際,私が中古車を購入したお店の店長も,「“風評被害”なんて別世界の出来事だと思っていたんですが,こんなに辛いものなのかと…」と嘆いていた。

 前にも書いたが,BM社の事件は,GS業界には“隣家の火事”。それ以前から,国民生活センターへの問い合わせ件数で中古自動車や,車検・整備などカーメンテナンスに関する事案は,毎年上位にランキングされていたそうだから,業界のイメージ悪化をBM社だけのせいにしていいかどうかは微妙だし,GS業界もこの際,襟を正さねばならないのでは。

 それにしても,これほどの社会問題を引き起こした会社を買収するのは,慎重のうえにも慎重な調査が必要であろうし,株主への説明責任も果たさなければならない。それに,伊藤忠が“必須”としている創業家の排除も決して容易ではない。BM社の全株式は依然として創業家の資産管理会社が保有しており,資産価値が事実上ゼロになるような条件を受け入れるかどうか。仮に裁判で争うなどして時間を浪費するようなことになれば,そのあいだにBM社の価値は減少してしまうだろう。伊藤忠は来春までに支援の諾否を出すとしているが果たして…。

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