セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.979『水素も…』

GS業界・セルフシステム

2023-12-11

 『岩谷産業が旧村上ファンド系投資会社 シティインデックスイレブンスなどからコスモエネルギーホールディングスの株式の2割を取得した。1年半にわたった村上氏側とコスモHDの対立を,急きょ参戦した岩谷産業が解消したかたちだ。岩谷産業にとって過去最大級の投資の成否は,水素エネルギー普及に向けたコスモHDとの連合づくりにかかっている』─12月4日付「日本経済新聞」。

  取得額は1053億円。村上氏側が保有するコスモ株のほぼ全株式にあたり,持ち株比率は約20㌫で,岩谷産業は村上氏に代わり筆頭株主となる。村上氏は22年からコスモHD株を買い進め,筆頭株主として風力発電事業の上場や製油所の統廃合,株主還元の強化を求め,コスモ経営陣と対立してきたが,その間コスモ株価は足元で5600円前後と22年末より約6割高い水準で推移してきた。今回の売却で村上氏側はこれまでの配当収入も含めてざっと500億円の利益を手にしたとされている。「石油業界のあるべき姿を提言する」とかなんとか言っていたが,やはり投資ファンド,最後はカネ儲けだったということか。

  一方,岩谷産業は「過去最大級の投資」を全額銀行からの借り入れで行なうとのこと。水素事業に対する並々ならぬ覚悟が見て取れる。岩谷産業は,昨年1月にトキコシステムソリューションズを約200億円で買収し100㌫子会社にして,水素充填機の開発や製造,水素ステーション(HS)の建設・運営など,水素供給に必要な体制を整えてきた。エネ庁によると,19年時点でHSの投資コストは土地代を除いて約4億5000万円。通常7000~8000万円で済むGSに比べるとはるかに高く,国内でまだ50カ所ほどしかない。政府は30年までに国内に1000基の設置を目標にするが,足元では200カ所に満たないとされる。EV同様,水素社会の実現も“台数が先かスタンド数が先か”というジレンマを打破しなければ成就できない。岩谷産業は,まずはインフラ拡充からということで,今回コスモ株取得を決断したのだろう。これを機に約2600か所のコスモ系列GS網にHSを併設できれば,インフラ整備は一気に加速すると見られる。

 「水素自動車」と言っても実は2種類ある。一つはエンジン内でガソリンの代わりに水素を燃焼させて走る「水素エンジン車」(H2ICE)。もう一つは,空気中の酸素と車載の水素を結合させて発電し,モーターを回して走る「水素燃料電池車」(FCEV)。現時点で日本で実用化されているのはほぼ全てがFCEVだ。走行中に排出されるのは,水蒸気のみで,CO2や汚染物質の排出はゼロ。電気モーターを動力としているため,低振動・低騒音。水素の充填時間は3分程度で,ガソリン車とほぼ同じ。いい事尽くしだが,トヨタの「ミライ」の車両価格は最低700万円以上。上限85万円の補助金があるとはいえ,ガソリン車やEVと比べればかなり高いし,水素を貯めておくタンクが大きいため,大型車中心になりがちなのもデメリットだ。

 ところで,気になる燃料価格だが,都内のHSでの販売価格は現在1㌔㌘あたり1,200円(税込,以下同じ)前後。ミライの水素タンク総容量は5.6㌔㌘なので,空っぽのタンクを満タンにすると,6,720円。ミライの航続距離は約850㌔㍍だそうで,20㌔㍍あたり約158円で,ガソリン車といい勝負。経産省の「水素・燃料電池戦略ロードマップ」によると,30年頃には水素1㌔㌘あたり330円を目標としているとのこと。今後,技術革新によって電気モーターを必要としないH2ICEが量産・市販化されるようなら,ガソリン車はいよいよ終焉を迎えることになるかも。

 ただ,冒頭の記事の続きによれば,『コスモ社内からは「成長の軸足にしてきたのは風力発電などで,水素が大きな事業機会になるか分からない」という声も聞かれる。コスモHDの連結売上高は2兆5000億円強で,筆頭株主になるとはいえ,売上げ規模が9000億円強の岩谷産業の意向がどこまで通るのかは分からない』と。実際,今回の投資発表後,岩谷産業の株価は前週に比べて4㌫下落したというから,市場関係者は,水素事業への“ミライ”にはまだ懐疑的なようだ。果たしてこの先「ス・イ・ソも満タンに~♪ 」となるかどうか。

コラム一覧へ戻る

ページトップへ