セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.989『百均の功罪』

政治・経済

2024-02-26

 『100円ショップの草分け的存在である「ダイソー」を運営する大創産業 創業者の矢野博丈氏が12日,心不全のため死去した。80歳だった。1972年に大創産業の前身となる矢野商店を創業し,トラックを使った移動販売を始めた。移動販売の中で商品を100円で販売したのが「百円均一」の始まりだった。77年に大創産業を設立。91年にダイソー直営1号店を高松市に出店し,全国への出店を本格化させ,業界首位に成長させた。現在は,世界26か国・地域で5000店超を展開し,23年2月期の売上高は5891億円に上る』─2月19日付「讀賣新聞」。

 いまでは,「ダイソー」のほかにも「セリア」とか「キャンドゥ」など,「百均」は庶民の生活に深く浸透しており,市場規模は1兆円を超えると言われる。私もイオンなどのショッピングセンターに行った時には,大抵テナントの一角を占めている百均に立ち寄る。特に欲しいものがなくても,“あれま,こんなものまで百円で売ってるんだ”などと感心しながら店内を散策して楽しんでいる。

 私の場合,百均「でしか」買わないものと,百均「では」買わないものがある。「でしか」の類は食器。コップや茶碗・小皿なんか,百均のもので十分。文房具も大抵百均で買うが,こちらはうっかりすると同じようなものがホームセンターなどで百円以下で売っていたりして“しまった”ということも。洗面用具や清掃道具もほぼ百均。商品ラインナップはどんどん拡がっており,これからも百均のお世話になる機会が増えそうだ。

 一方,「では」の商品は電化製品。むかし,電気工事関係の方から,「コードやコンセントの類は絶対使っちゃダメだよ」と助言されたことがある。彼曰く,「安く売れるということは質の低い部材を使っているから。価格が高くても,有名国産メーカーの製品を買いなさい。たとえテーブルタップ1個でも」と─。確かに,GSでは様々な電子機器が使用されており,電気系統は店舗における“生命線”と言えるわけで,高品質のものを使用すべきだろう。

 無論,百均商品が粗悪品と断じるわけではない。それこそが,故 矢野氏の最もこだわった事だと言われる。人物評伝の著作が多い大下英治氏によると,「“100円でも高級品だ”というのが矢野さんの口癖だった」そうで,「“安物買いの銭失い”という言葉を嫌い,良品を原価ぎりぎりで販売するのをいとわなかった。若いころに熱中したボクシングにちなみ,“仕入れは格闘技だ”とも。社長時代には机上に商品を並べ,自ら品質チェックに目を光らせた」─。

 とはいえ,やっぱり百均は百均なんだよな~と実感させられることもしばしば。こちらも“まあ,百円だから”と割り切って買っているわけで,商品のクォリティについて,過度な水準を求めるべきではないと思う。百均が今日まで隆盛していったのは,この30年日本人の給料がほとんど上がらずにきたことが大きい。株価が最高値を更新したと言われても,庶民の生活は相変わらず苦しい。百均は生活防衛の頼みの綱なのだ。その一方で,大量消費・大量廃棄の流れを作り出したという“罪”があるのも確か。大量のプラスチックごみが環境破壊を加速させている。また,「いいものを長く使う」とか「壊れたら修理する」という,日本人の持つ“モッタイナイ気質”も損なわれつつある。

 現金による大量仕入れ,自社商品の開発,大量の在庫を抱えられる倉庫の整備など,独自の流通システムで成長してきた百均だが,一昨年度から主要各社は軒並減益が続いている。その理由は,急激な円安と人件費の高騰。200円や300円の商品を増やしたり,ステルス値上げを行ったりして対応しているが,現状では有効な打開策とはなりえていない。実際,日本の百均では100円の商品が,外国では1.5~3倍の価格で売られているそうだから,もう「百円」の看板を維持するのは限界のような気もする。

 日本では,新しい商品やサービスのアイデアが生まれても,「値上げできない」という理由で却下されてしまうことが多々あるという。その新商品は世に出ることなく,企業は活性化せず業績が上がらないままとなる。すると企業は賃上げの余力がなく,当然働く人の意欲も失われて,アイデアが生まれなくなる。消費者としての購買意欲も上がらない─。このスパイラルに陥っている日本経済は,先ごろGDP4位に転落したそうな。百均が繫栄しているのは,本当は良くないことなのかもしれない…。

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