セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.995『地震と半導体』

社会・国際

2024-04-08

『台湾で3日に発生した大規模地震を受け,半導体の世界シェア6割を占めるTSMC(台湾積体電路製造)への影響が国際的な関心を集めている。経済安全保障の観点から供給網が台湾に集中していることのリスクを指摘する声は前々から上がっていたが,米CNNが「地震が発生しやすい島に,重要なマイクロチップ製造を集中させることのリスクをはっきりと思い出させた」と報じるなど,海外メディアからは厳しい指摘が相次いだ。TSMCは,一部の工場が被災し稼働に支障が出たものの「7割以上が復旧した」と説明。「地震への対応と防災に十分な経験と能力を有している」と完全復旧に自信を示した』─4月5日付 「時事通信」。

 台湾は日本同様,幾つもの活断層が走っている地震大国だ。1951年には,10月21日から11月26日までの間に,マグニチュード6を超える大きな地震が12回も連続して発生したこともあったという。そんなところに,TSMCの生産拠点の9割が置かれているそうで,日米欧などから工場の分散化を求められている。

 西側諸国が地震よりも心配しているのは,中国の脅威だ。ロシアのウクライナ侵攻のすう勢をにらみながら,台湾統一のために実力行使の機会をうかがっているといわれる中国。ひとたび有事となれば,自動車も,パソコンも,エアコンも,医療機器も,何もかもが製造できなくなるわけで,まさに悪夢だ。裏を返せば,一極集中させているからこそ,諸外国との正式な国交をほとんど持たない(持てない)小さな島国が国際社会で存在感を示し,大国中国に対峙できているというわけだ。

 そのTSMCが,数少ない海外生産拠点を,1兆3千億円を投じて日本の熊本県に建設中だ。完成予定は今年9月で,すでに第2工場の建設も決まっているという。九州には大小の約1000社の半導体関連企業があり,そのうち200社以上が熊本県に集中していることが,その理由とのこと。さらに,熊本には半導体生産に欠かせない資源が豊富にあるという。それは純度の高い地下水だ。熊本県の象徴ともいえる阿蘇山は世界有数の巨大な凹地(カルデラ)を有しており,天然の貯水槽となっている。阿蘇の噴火でできた土壌は水を通しやすく,急流となって田畑の広がる中流部を駆け抜け,熊本市街地を貫流し,低平地に広がる穀倉地帯を経て有明海に注ぐ。年間6億トンを超えるこの“恵みの水”によって,熊本県の生活用水の8割が賄われているという。

 ところが2000年代に入り,この地下水位が低下していることが分かった。地下水の使用量そのものは減少しているにもかかわらず,である。その理由は二次貯水槽の役割を果たしていた水田の減少だった。それで,熊本の水を活用している,ソニーや富士フイルム,サントリーなどの企業が農家と協力し,稲作を行っていない時期にも川から田んぼに水を引いてもらい,その費用を企業が負担するなどして,地下水量の維持に努めているそうだ。最先端の半導体製造に必要なのは田んぼというわけだ。今から400年以上前,肥後藩主として白川中流域に堰を築いて田園地帯を築いた加藤清正侯の功績大と言えるだろう。

 いまや人類は石油と半導体なしに文明を維持することは不可能。半導体がない世界は50年以上前にタイムスリップするようなものだ。1990年には50㌫を占めていた日本の半導体の世界シェアは2022年にはたったの6㌫。コロナ禍で半導体不足の恐怖を味わった日本は,国産へのこだわりを捨てて今回のTSMC誘致に踏み切った。

 TSMC進出で熊本県はいま特需に沸いているという。とりわけ,工場が建つ菊陽町ととなりの益城町には関連企業が続々進出,地価も高騰している。一方で,交通渋滞やそれに伴う事故の増加,賃金や地価の高騰などによって地元企業の経営が圧迫される恐れ,そして,件の地下水量など環境に及ぼす影響等々懸念材料もある。まあ,フタを開けてみなければわからないが熊本経済にとっては「百年一隅」のチャンスであることは間違いない。気がかりなのは,熊本県も2016年に大きな地震が発生していること。菊陽町では震度6弱,益城町では震度7を観測,甚大な被害をもたらした。地震調査委員会の平田直委員長は「『熊本地方では大きな地震が起きてしまったのでしばらく安全だろう』と思うかもしれないが,断層帯の全体が破壊されたわけではないので,決して地震が起きなくなるということではない」と注意喚起している。無論,絶対に安全な場所なんて世界のどこにもないのだが・・・。  

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